(2017年5月取材)
話す力で圧倒されても、きめ細かな行動で会議の進行に貢献できる
◆世界大会に向けてどのような準備をしましたか。
世界大会に向けて1番不安だったことは英語でした。学校のオーストラリア研修でバディだった友達に、世界大会出場が決まったその日に連絡して、英会話の練習をしてもらえるようお願いしました。それから半年ほど、毎日30分スピーチを見てもらったり違う文化を英語で教えてもらったりしました。
また、国連の資料や条約などを読み、議題に関する語彙を増やして行きました。今回の議題は「死刑制度」で英語ディベートでもポピュラーな議題だったので、英語ディベート部の先輩に、ディベートだったらどのように展開するかも聞きました。
◆準備の段階で苦労したことがあれば教えてください。
今回担当した委員会は人権委員会でした。今までと違い、人権に関する問題は国益がわかりづらく苦労しました。しかしそれ以上に、そもそも国が何のためにあるのか、人権とは何なのか、という根本的な問題から考える良い機会になりました。
初めは、国益は安全保障面か経済面にしか求めることはできず、人権の意義を見出せませんでした。しかし議論を重ねていく中で次第に、人権委員会という特有の委員会を生かして、世界の理想を語る場を作っていこうという意識が出てきました。そこで、国家はいかなる形であっても国を安定させたいという共通の思いから見出せる国益を自分たちで作っていきました。
カーボヴェルデに関しては、大学からカーボヴェルデの法律に関する論文をもらったり、JICAで西アフリカ担当の方からお話を伺ったりしました。
◆各国の高校生と比べて、日本の高校生はスゴイと思ったところを教えてください。
大きく分けて2つあります。1つ目は、議題に関して深める力です。1つの側面に対して案を出していくだけでなく、出された案の実現性を高める手段を考えたり、さらに良くしていくために議論を重ねたりすることは日本の模擬国連の方が優れていると思います。
2つ目、全体を把握する力です。自分たちのグループの進行状況だけでなく、議場全体に気を配ることで良い会議を作っていこうという日本の高校生の思いはすごいと思います。
◆会議を進める上でいちばんたいへんだったことは何ですか。
会議に参加している高校生の話す力が高い中で、目立っていく必要があることが大変でした。正直言うと、この壁は乗り越えることができませんでした。一気にガーッと話されて圧倒されてしまったり、自分と同じ意見を持つ人が上手に周りを説得させていくのを見て頷くことしかできなかったりする時もありました。
その中でも、周りの意見を聞き、それをノートにまとめて他の人にシェアできたことは、地味ではありましたが、会議を進めていくのに貢献できたことでした。
◆大会を通して、あなたがいちばん頑張ったことを教えてください。
落ち込んでも立ち直って乗り切る精神力を持って取り組むことです。会議準備中にも政策がなかなかできなかったり、政策発表のプレゼンがうまくいかなかったり、心が折れることは何度もありました。それでも立ち直って、次の日からまた全力で取り組める忍耐力がこの大会を通してつきました。
けれど大会2日目、自分たちが目指していた会議の流れに持ってくことができず落ち込んだ時は、立ち直ることができませんでした。本当にそれが悔しいです。この悔しさを晴らすために、また何らかの形で世界に挑戦したいと今は思っています。
◆今回の大会も含めた旅行全体で、最も印象に残ったことを教えてください。
(※海外旅行・滞在の経験:今回が3回目)
ニューヨークにいる人から生きるエネルギーを感じて、自分が弱いと押し潰されてしまいそうな気分になったのが印象的でした。少し怖い感じもしました。夜のお店で周りの人の話し声が大きかったこともあるかと思います。
ニューヨークで投資関係の仕事をしている女性と一緒に食事をさせていただいたのですが、世界の急変の中でニューヨークに住む人もみんな生きていくのに必死だというお話を聞いて、自分がニューヨークに対して感じた感覚が納得できました。
いろいろな人に話しかけてみることで培った安心感を支えに
◆世界大会に向けてどのような準備をしましたか。
世界大会全体という意味では、英語力の向上のためにオンライン英会話を毎日やっていました。また、アメリカ人と会議をしたことがなかったので、いくつかアメリカ人に関するビジネス本を読みました。『反省しないアメリカ人をあつかう方法34』(ロッシェル・カップ著)は、文化面への考察と実用的なフレーズ集のバランスが取れていて特に面白かったです。
担当する委員会については、当初私たちの議題である「死刑制度廃止」が、どうして国連で議論されるべき国際問題なのかということ自体が納得できず、ペアや先生方と議論を重ねました。
◆カーボヴェルデという知名度の低い国の情報を集めるためにどのようなことをしましたか。
カーボヴェルデの法制度について分析している論文を読んだり、「アフリカの国でありながらEUとの関係を重視している」という仮説を立ててからは、EUの途上国支援プログラムなどについて調べたりもしました。
◆各国の高校生と比べて、日本の高校生はスゴイと思ったところを教えてください。
いちばん感じたのは「質問に的確に答える力」です。他の参加者、特にアメリカから来ている学生たちは間を空けずに話すのがとても上手かったのですが、的を射ていないことも多々ありました。日本では、相手の言っていることをよく聞き咀嚼して回答する能力が、レスポンスの速さよりも美徳として重視されているからかもしれません。
◆会議を進める上でいちばんたいへんだったことは何ですか。
自分を他の強い大使から差別化することが一番難しかったです。グループのリーダーが経験者でどんどん作業を進めてしまう人でした。アメリカでの模擬国連経験がない私は、その人に作業のスピードでは対抗できないと感じました。
そこで、彼が切り捨てた観点を積極的にメモし、「いくつか落としていた点があったからそこ発表するね」などと言ってグループ内で自分の見せ場を作っていきました。その際、喋りたそうなグループメンバーに付箋を渡して、自分は円の真ん中に座り意見を整理することで、議場を見ている運営側からも私が何をしているのか見えるように意識しました。
◆大会を通して、あなたがいちばん頑張ったことを教えてください。
「とにかく話しかけてみる」ということです。私は普段は会議の前後は席に座って胃を痛めながらドキドキしているタイプなのですが、今回は大使としてだけでなく人間としての私と信頼関係を築いてもらうことを目標に、エレベーターで乗り合わせた人にどこの議場か聞いてみたり、偶然同じ議場に出るとわかった人と好きな音楽の話で盛り上がってみたり、会議当日も座る席がわからない人に席を案内してみたりとなるべく人と話す機会を増やすように努力しました。そういったところで関わった大使が会議で実際に仲間になった時は、異国の土地でも知り合いがいるという心強さがあり安心して行動できました。
◆今回の大会も含めた旅行全体で、最も印象に残ったことを教えてください。
(※海外旅行・滞在の経験:今回が6回目)
ニューヨークの路上ではホームレスたちが1つのブロックごとに1人ぐらいの間隔で生活していました。会議中は議論を進めていくために、アメリカ人が提案した「司法制度改革のためのアフリカン・ユニオン・ファンドの創設」をいいねいいねと流しながら、実際路上で今お金を必要としている人たちとは目を合わさないように無視している自分が嫌になりました。「模擬」国連はここで一区切りになるので、自分の周りで実際に行動を起こしていこうと思いました。