「みな恐怖におののいて暮らしています」

西アフリカのエボラ出血熱について現地から緊急レポート

シエラレオネのCMFO孤児院の管理人・アルファさんから

東京大学 国際協力学生団体 GREEN HEARTS 

太田ひと実(東京大学 理科二類 2年生)

CMFO孤児院の前で。中央の黄色いシャツの人がアルファさん
CMFO孤児院の前で。中央の黄色いシャツの人がアルファさん
太田ひと実さん
太田ひと実さん

私たちが支援活動をしているシエラレオネでは、エボラ出血熱で大きな被害が出ています。現地からからレポートが届きました。
※「東京大学 国際協力学生団体 GREEN HEARTS」は、「みらいぶ」で途上国支援の記事を連載している弓長春佳さんが所属している「NPO法人 ファーストアクセス」と共同で国際協力を進めている東京大学の学生団体です。

 

世界の最貧国の一つであるシェラレオネでは医療設備の不足が深刻

西アフリカ全般に大きな被害をもたらしている「エボラ出血熱」について、皆さんもテレビや新聞で見聞きしたことがあると思います。エボラ出血熱は第一号の症例が確認されたのが1976年と、新しい病気であり、しかも今まで発生はすべてアフリカの一部の国にとどまっていました。そのため、致死率が非常に高く、感染力も強い病気であるにもかかわらず、治療法はまだ確立されておりません。今回の大流行は、治療にあたった先進国の医師や、西アフリカからの渡航者が感染するなど、全世界が無関心ではいられない状況になっています。


シエラレオネにこの病気が感染した原因となったのは、ギニアからの感染者ただ一人が、飛行機で移動したことだと言われています。それが急速に拡大したため、シエラレオネ政府は全土に非常事態宣言を発令して外出を制限しました。とりわけ感染者については厳しく管理しましたが、その一方で感染者への食料供給が十分に機能しなかったため、数千人単位の感染患者が空腹を満たすために市場へと買い出しに出掛けてしまうなど、感染の拡大は止められませんでした。

加えて、世界の最貧国の一つであるシエラレオネに医療設備がかなり不足していたことも、大きな影を落としました。というのも当初に発生した沿岸地域にて感染の拡大を十分に防ぐことができなかったため、現在は西部や北部地域においても感染者が増加しており、元々発生したリベリアでは11月13日に終息宣言が出されたのと対照的に、シエラレオネ政府は11月6日、「今後一年間は非常事態宣言を解除できないだろう」との見方を示しています。

★★

私たちが支援を続けているCMFO孤児院の管理人であるアルファ・バングラさんから、状況を知らせるとともに寄付を仰ぐメールが届きました。

左奥の黄色いシャツの人がアルファさん。孤児院の前で
左奥の黄色いシャツの人がアルファさん。孤児院の前で

外出制限や物価の高騰、病院の閉鎖。苦しい生活


幸いなことに私も、そして子供たちもまだエボラ出血熱には感染していません。しかしラジオからは連日、患者数の増加が伝えらえており、みな恐怖におののいて暮らしています。

既に国内の全地域において感染が確認され、感染リスクが極めて高い状況となっています。時には3日間も外出を制限され、また少しでも熱などの症状が見られた際には必ず117番に電話して救急車を呼ばなければなりません。政府は町の病院やクリニックを閉鎖し、エボラ出血熱対策専門のセンターとして改装しています。そして感染の危険が高い個所については立ち入りが禁止されています。

何より辛いのは交通の制限に伴う食料品や他の物資の価格の高騰です。売るモノがないためか商店の多くが休業となっているほか病院も閉鎖され、一般市民の生活は非常に苦しくなっています。開いている商店での買い物自体は禁止されていないものの、ただでさえ寄附金が足りないCMFO孤児院にとっては今の状況が続くことは危機的であるとも言えます。このようにモノの移動が大きく制限されていることに加えて、情報もほとんど得られず、現地にいる我々も「一般に報道されている情報に頼るしかない」状況です。

シエラレオネは長年にわたる内戦がやっと終わり、やっと復興の道を歩み始めていましたが、そこにエボラ出血熱という病気が我々を襲いました。物価が高騰しているため既に食費も医療費も無くなりかけていますが、このように病院が閉鎖されている状況下においては一人でも何かの病気にかかったら個人の看護師に孤児院まで往診してもらわなければなりません。

日本の皆様には無事を祈ってもらうことに加え、少しでも多くの寄付をお願いします。


★★★

シエラレオネではダイヤモンドの利権をめぐり11年にわたる内戦が続き、多くの子供たちが親を殺されたり、少年兵として徴用されたり、体を深く傷つけられました。CMFO孤児院はそんな子供たちを引き取って育てています。

日本のような万全な医療が当たり前でない西アフリカで必死に生きる子供たちを、同世代の私たちも応援したいと思います。

 

<関連記事>

緊急連載:シエラレオネの孤児院からのSOS
みなさんの寄付が世界最貧国の教育を作る~孤児院への寄付のお願い
弓長春佳さん(高校3年)
→こちらに寄付の送付先もあります

★★★★

<エボラ出血熱はなぜ発生・拡大したか>
過去には中央アフリカで流行、2014年は西アフリカで大流行


今年2014年に入ってから拡大したエボラ出血熱が最初に確認されたのは、3月のギニアにおける2歳児の感染事例でした。それが周辺6か国に早いペースで広がり、11月12日に発表されたWHO(世界保健機構)の資料によると、ギニア・リベリア・シエラレオネの西アフリカ3か国で14,068人の感染者が確認されています。このうち、5,147人が既に死亡しており、極めて高い致死率だと言えます。(アフリカ諸国では先進国で導入されているような住民票の制度があまり整備されておらず、実際の数はもっと多いものと思われます。)

出典:WHO、HPA、CDC 次のサイトを参考に作図 http://www.bbc.com/news/health-29060239
出典:WHO、HPA、CDC 次のサイトを参考に作図 http://www.bbc.com/news/health-29060239

1976年から2013年までに確認された感染者数は2,387人、うち死亡者は1,590人ですが、ほぼ全数が東アフリカ(ウガンダ、スーダン)と中央アフリカ(ガボン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国)に集中していました。
 
ところが、今回の西アフリカにおける大流行では、同地域でほぼ初めてのケースであったことから対応(治療、患者の取扱い、感染拡大の阻止)に慣れておらず、既に死亡者数が過去の全ての累計を大きく超え、深刻な問題となっています。

野生動物を食べる習慣が引き金か

元々エボラウイルスを保有しているのはオオコウモリなどの野生動物です。ウイルスを体内に取り込んでも自らは発病せず、他の動物には感染させますが、それが人間に感染する可能性はあまり高くありません。しかし、アフリカではコウモリやゴリラ、チンパンジー、ネズミ、そして蛇などの野生動物を食べる習慣が今でも残っており、今回もそれらの野生動物から2歳児に感染したものと考えられています。


そして人間から人間へは、患者の身体や体液を通じて容易に感染するため、葬儀で患者の遺体に触れる風習があることで感染が急速に拡大した模様です。また、治療にあたった医療従事者もエボラ出血熱の感染を防ぐ知識や設備、そして経験が不足しており、残念ながら多くの関係者が感染してしまいました。

★★★★★

<西アフリカってどんな地域だ??>
イギリス、フランス等の植民地だった

 

今回、西アフリカから日本への渡航者がエボラ出血熱を疑われたことで同地域への注目度が高まりましたが、「西アフリカ」についてはそもそも、日本であまり知られておりません。というのも南米のサッカーや中東の石油などのように身近な接点が少なく、教科書でもニュースでも取り上げられることがかなり少ないからです。

西アフリカには国連の分類によると全部で16ヵ国とイギリス領の海外領であるセントヘレナ島が含まれていますが、リベリアを除く全ての国は過去にイギリス、フランス、ポルトガルあるいはドイツの植民地となっており、また公用語も英語、フランス語、ポルトガル語、アラビア語であるため今でも欧州諸国との結びつきが強い地域です。なお欧米諸国に加えて中国人やインド人も古くから移民として各国に入り込んで華僑および印僑のコミュニティを形成しています。

西アフリカ16ヵ国
西アフリカ16ヵ国

モーリタニアはタコの最大の輸入先


このような歴史的背景から西アフリカは欧米や中国、インドとの関係は深い一方で、日本ではガーナやナイジェリアなどは聞いたことがあっても、他の国々についてはほとんどの高校生は知らないのではないかと思います。しかしながら、西アフリカの中には日本と大変縁の深い国もあります。例えばモーリタニアは日本にとって最大のタコ輸入先国です。また、日本はコートジボワールやガーナからチョコレートの原料であるカカオ豆を大量に輸入しており、ナイジェリアからは原油や液化天然ガスを輸入しています。

 

一方、日本からはほとんどの国々に自動車やトラック、バイクなどを輸出していますが、日本との貿易額が非常に少ないケースもあり、そうした国々は日本の大使館も置いていません。(例えばシエラレオネ、カーボベルデ、ギニアビサウそしてニジェールは各国の在中国大使が日本も管轄下に置いています。)

独特な文化がエボラ出血熱拡大に


つまり日本は現在、西アフリカ諸国から一次産品(石油・天然ガスなどの天然資源、カカオ豆などの農産物、タコなどの水産物)を仕入れ、工業品を輸出している一方、それ以外の政治・経済・文化的な接点はあまりありません。それは、西アフリカ地域が、西はセネガルから東はナイジェリアまでの広範囲において食事や衣類、そして音楽などにおいて、世界の他地域と比べて独自な文化を共有しており、加工が可能な一次産品以外は日欧米であまり受け入れられないからです。

そして、実はこの「地域内の共通した文化」が今回のエボラ出血熱の流行と強いつながりがあるのです。というのも、エボラ出血熱が拡散した背景には、「野生動物の捕獲・食用」、「葬儀における参列者の遺体への直接接触」など、西アフリカでは広く共有されている古くからの習慣があり、これらが動物から人間への感染やその後の拡大の原因となったからです。

★★★★★★★

<学生ができる国際協力はいろいろある>
アフリカの子どもたちに太陽光発電ランプやパソコンを

私たち「GREEN HEARTS」は環境やエネルギーを通じた国際協力を進めており、具体的には学園祭における「チャリティ・カフェ」や「チャリティ・ライブ・カフェ」を通じた募金活動で寄付金を集めてアフリカの子どもたちに太陽光発電ランプやパソコン+発電機+通信費用のセットを寄付したり、アフリカ孤児院のホームページ作成などをしています。学生のメリットを活用しつつ、留学生メンバーとも力を合わせてアフリカの子供たちを支援しています。私たちの顧問教諭は日本でのアフリカ政治研究の第一人者である東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部の遠藤 貢教授で、支援している国々の政治的な背景などについて学びつつ活動しています。

高校生の皆さんは、大学生による国際協力について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。途上国支援だけではなく、教育やスポーツ分野、医療・衛生分野、ジェンダー問題(性差にもとづく社会的・文化的な区別)、地球温暖化問題、農業支援など、学生団体がによって行っていることも違いますし、対象とする国や地域も多岐にわたります。実際に現地に赴いてボランティア活動をする団体もありますし、海外での国際会議に出席している団体もあります。

 

英語が苦手でも心配しないで

もし国際協力したいという意思があっても「英語が苦手」ということで気後れしているなら、あまり心配はいらないと思います。英会話や英作文が苦手な 人も個人の得意な分野で参加できる機会も多くありますし、また、私も英語が得意ではありませんが、GREEN HEARTSに入って駐日大使と話したり、国際シンポジウムで外交官の前で英語を使って挨拶したりと、英語を使う機会が増えています。


高校生の皆さんも、大学ではぜひ国際協力活動にも目を向けていただければと思います。例えば学ナビ http://www.gakunavi.info/ をご覧になると多くの国際協力団体が掲載されているので、参考にしてみてください。

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