酸化還元で色が鮮やかに変わる!
――BZ反応を長時間続けると…?
【化学】茨城県立水戸第二高等学校 数理科学同好会
(2015年7月取材)
◆部員数 10名(うち1年6名、2年2名,3年2名)
◆書いてくれた人 笹本恵利子さん(3年)
■研究内容「閉鎖系Belousov-Zhabotinsky 反応の長時間挙動」
酸化・還元。高校化学で最も重要とも言える単元の一つです。しかし、たくさんの半反応式を覚えなくてはならないなど、複雑で苦手とする人も多い分野であることも確かです。そんな酸化・還元によって、周期的に美しく色が変わる反応があることをご存知ですか?
まずはこの動画を見てみてください。
いかがでしたか。あの複雑な酸化・還元にも、こんな美しい反応を示すものだと思えば、少しは楽しく挑めるのではないでしょうか。
この反応は「BZ(Belousov-Zhabotinsky:ベロウソフ・ジャボチンスキー)反応」と呼ばれる、私たちの部活動で継続的に研究している反応です。BZ反応は様々な物質を使った例が知られていますが、このスライドは酸化還元指示薬のフェロイン/フェリインを使った際の反応を示しています。赤色のフェロインを酸化すると青色のフェリインに、逆に青色のフェリインを還元すると赤色のフェロインに変化します。下のグラフは横軸が時間、縦軸が酸化還元電位を表しています。低電位の間はフェロインが多い状態ですが、高電位になった瞬間にフェリインが多くなり青色に一瞬変わることがわかります。
さて、このBZ反応には長時間続けると、4通りの終わり方があることが知られています。1つ目が振動停止後高電位になる「酸化定常状態」、2つ目が振動停止後低電位になる「還元定常状態」、3つ目が一度還元定常状態になったあとに再び振動し始める「振動の復活」、そして4つ目が長い定常状態の後に急に振動が始まりだんだん収まるもので、これは先ほどの復活した部分に似ていることから「第2ステージ振動のみ」と呼んでいます。後半の2つの反応は、なんと私たちの先輩が発見した反応です。私たちはその研究を受け継ぎ、第2ステージ振動の発生メカニズムを中心に研究しています。
下のスライドは、マロン酸と臭素酸ナトリウムの最初の濃度(初濃度)を変えて実験したときの分布図です。それぞれの濃度のときにどの種類の反応が起こるかを分析しました。
私たちは今回、フェロイン濃度と撹拌速度が「振動の復活」「第2ステージ振動のみ」にどのように影響を与えているか調べました。
最初は、フェロイン濃度による影響です。BZ反応は、時間が経つにつれて赤と青の変化ではなく、赤みがかった黄色と青みがかった黄色の変化になります。つまり、第2ステージ振動では黄色っぽく脱色してしまうのです。これはフェロインやフェリインが、酸性の条件では、徐々に黄色を示すFe3+とその他の部分に解離していくからです。すなわち第2ステージ振動は、Fe3+が解離してフェロイン濃度が小さくなったときに起こるということがわかります。そこで私たちは、フェロインの濃度を変えれば第2ステージ振動の開始時間が変わるのではないかと考えました。
実験では、フェロインの初濃度を変化させて第2ステージ振動の開始時間や周期の幅を調べました。すると、初濃度を低くすれば開始時間が早く、逆に濃くすれば遅くなることがわかりました。また、「第2ステージ振動のみ」の周期の幅はほぼ一定ですが、「振動の復活」の幅は初濃度を低くすると小さくなることがわかります。
では、本当に時間が経つにつれてフェロインの解離は進んでいるのでしょうか。私たちは、分光光度計を用いてフェリイン濃度を測定しました。すると、「振動の復活」の場合の方が「第2ステージ振動のみ」の場合よりもフェロイン濃度が早く小さくなっていることがわかりました。すなわち、第1ステージ振動が起こる場合のほうが、フェロインの解離は早く進むのです。
続いて撹拌速度による影響を、マロン酸と臭素酸ナトリウムを用いて調べました。まずは通常250rpm(1分間250回転)にしていた撹拌速度を変化させて、「還元定常状態」の振動がどのように変わるかを観察しました。すると、280rpmに速度を上げると第1ステージ振動が消滅し、第2ステージ振動が出現しました。しかし、撹拌速度を250rpm以下にしても「還元定常状態」のままであり、また280rpm以上にしても「第2ステージ振動のみ」のままでした。
この結果は、ちょうどマロン酸の初濃度を変えたときの反応と似ています。すなわち、撹拌速度を上げるとマロン酸の初濃度を下げたときと、撹拌速度を下げるとマロン酸の初濃度を上げたときと結果が同じなのです。
では、なぜ撹拌速度を上げると振動数が下がるのでしょうか。私たちは空気中の酸素の影響を考え、実験を行いました。
b)を見てください。油を溶液の表面に敷き空気との接触を遮断すると、振動数は下がらず「還元定常状態」のままでした。しかし、空気を遮断しなかったa)では振動数が下がり、「第2ステージ振動のみ」になりました。酸素は振動を妨げる働きをすることがわかっているため、撹拌は酸素を取り込むことによって振動を妨げる可能性が高いと思われます。
以上の実験を通して、BZ反応は用いる物質の初濃度および撹拌速度の変化によって、振動の状態は変わっていくことがわかりました。
■研究を始めた理由・経緯は?
10年近く前に、先輩方が偶然反応液を長時間放置したことで、今まで知られていなかった緑色への反応液の色の変化に気づくことができました。それ以来、私たちの同好会では、様々な角度から、この反応についての研究を行っています。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
だいたい活動は月・水・金でそれぞれ2時間位ですが、その間の日も薬品を作ったりしているので、とても長いと思います。1年生の時に同好会に入ってから、先輩の手伝いなどをしながらずっと携わってきました。
■今回の研究で苦労したことは?
少しのミスで実験が失敗してしまうことが大変でした。1つの実験に2日かかるので、とてもつらいです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
酸素の影響かどうかを調べるときに油を使用したところです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
1つは先輩方の研究です。もう1つは、『非平衡系の科学〈3〉反応・拡散系のダイナミクス』(三池秀敏、山口智彦、森義仁[講談社])という本です。こちらは、絶版で、今では入手困難です。
■次はどのようなことを目指していきますか?
今後はBZ反応のシミュレーションの作成を中心に行っていきたいと思います。
■ふだんの活動では何をしていますか?
小学生との交流をしていますが、ほとんどが研究と発表が中心です。
■総文祭に参加して
レベルの高い発表が多かったのですが、優秀賞をとることができてうれしく思います。とても有意義な時間でした。
※水戸第二高校の発表は、化学部門の優秀賞を受賞しました。