鳴き砂を物理の目で定義して、環境指標に活かす!
【地学】福島県立磐城高校 天文地質部
(2015年7月取材)
◆部員数 19人(1年生6人、2年生3人、3年生10人)
◆書いてくれた人 緒方敦也くん、山野邊瑞樹くん(3年)
■研究内容「鳴き砂海岸の異なる地点における鳴き方の違い」
私たちは、鳴き砂の定義について研究しました。鳴き砂はわずかな環境の変化によって音が出なくなってしまうため、環境の指標になりうると考えたからです。
鳴き砂を環境の指標とするためには、鳴き砂を科学的に定義することが不可欠です。そのため、まず初めに鳴き砂とそうでない砂を区別する、数値的な判定基準を定めることにしました(目的1)。これにより、従来のような人の耳では判定できない砂の判定が行えるようになります。そのうえで、定めた判定基準を用いて音と粒子の物理的性質の関係性を調査し、鳴き砂を定義することにしました(目的2)。
目的1を達成するために、以下の研究1と2を、目的2を達成するために研究3から6を行いました。
研究1. 鳴き砂を採取し、音を解析した
いわき市内の代表的な鳴き砂を数か所で採取し、検鳴器とよばれる砂の音を鳴らす器具で音を鳴らし、ボイスレコーダーで録音してパソコンで解析しました。
それにより、周波数スペクトルというグラフを得ました。横軸が周波数、縦軸が音圧を示しています。
このグラフから、以下の二つの仮説が得られました。
仮説1. 鳴き砂は1000~3000Hzで山が二つなのに対し、鳴かない砂は三つあることから、鳴き砂は1000~3000Hzにおける谷が大きい。
仮説2. 鳴かない砂は8500Hz付近で大きな山があるのに対し、鳴き砂にはそれが見られないことから、鳴き砂は8500Hz付近の山が小さい。
研究2. 鳴き砂の特徴を一般化し、判定基準を定めた
研究1で得られた仮説が他海岸でも見られるかを確かめました。
仮説1の検証のために、谷の大きさを「1000~3000Hzにおける2つの山の音圧の平均と、その中間の周波数における音圧の差」と定めました。また、仮説2の検証のために、山の大きさを「8500Hz付近の山の音圧と、11000Hz付近の山の音圧の差」と定めました。これは、研究1におけるすべての砂で、11000Hz付近の山の大きさがすべて同じ程度だったからです。
この式のもとに各地の砂を検証した結果、「いわき鳴き砂を守る会」という団体が良く鳴くと評価した砂ほど、谷の大きさが大きいことがわかりました。このことから、仮説1は正しいと言えます。同様に、良く鳴くと評価された砂ほど、8500Hz付近の山は小さいことがわかりました。このことから、仮説2も正しいことがわかりました。
さらに、横軸に谷の大きさ、縦軸に山の大きさを取ってグラフ化したところ、鳴き砂とそうでない砂の間に境界を定めることができました。
以上から、谷の大きさが13.2デシベル以上(基準1)、山の大きさが3.45デシベル以下(基準2)の砂を鳴き砂とするという判定基準を定めました。
研究3 定めた基準を用いて音の違いを調査した
いわき市の豊間海岸の24地点から砂を採取し、判定基準を満たしているか調査しました。
すると、基準1はほとんどの砂は満たしておらず、基準2 はほとんどの砂が満たしていることがわかりました。そのため、それぞれの値がどれだけ基準に近いかを比較しました。その結果、波打ち際から遠くなるほど判定基準を満たさなくなる傾向が見られました。
研究4 音の違いの原因を調査した
研究3で見られた傾向と粒子の物理的性質との関係を調べるため、研究4を行いました。まず、以前の研究から、直径の小さい粒子が含まれている砂は鳴かないことと、石英以外の鉱物が多く含まれている砂は鳴かないことが聴覚的判定によってわかっていたため、今回これを数値的判定によって検証してみました。
実験1では、各地点から採取した砂のうち25gふるいにかけて直径150㎛未満の粒子の質量を計測しました。実験2では、各地点から採取した砂のうち200粒ずつについて、石英以外の鉱物の割合を調べました。
以上の実験から、波打ち際から大きくなるほど直径が小さい粒子の割合が多く、石英以外の鉱物の割合も多くなる傾向が見られました。
研究5 砂の季節変化について調査した
研究3と研究4で、10月に採取した砂が鳴かなかったのは、海岸の環境の季節変化によるものではないかと考え、3月に採取した砂で再び調査を行いました。
その結果、小さい粒子の割合、石英以外の鉱物の割合ともに研究4と同様の傾向が見られました。
しかし、各地の砂の音について数値的判定を試みたところ、研究3のように、波打ち際から遠くなるほど基準を満たさなくなるといった、明らかな傾向は見られませんでした。
研究6 違う物理的要因について調査した
研究5から、砂の鳴き方には別の物理的要因が関係していると考え、砂の円磨度、すなわち粒子の表面のなめらかさについて調査しました。
しかし、各地点での円磨度の平均や分散を調べても、顕著な差は見られませんでした。また、研究5で音の鳴き方を数値的に判定すると、研究3のような傾向が見られなかったことから、自分たちで聴覚的な判定を行うとどうなるかを調査してみました。
部員5名の判定が一致した箇所において数値的判定と比較すると、鳴かないと判断した砂は鳴かない側の境界線によっているため、数値的判定によって鳴かない砂を区別することはできていると言えます。
今後は、鳴き砂の粒子と音との関係の研究を継続していくとともに、海流の影響についても考察したいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
先輩方が「鳴き砂」の粒子の特徴などについて研究を行っていましたが、人の耳では鳴いているかどうかを判定できない砂があったため、私たちは砂が「鳴き砂」であるとはどういうことかについて調査しようと考え、研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日あたり2時間で2年。最初に始まったのは2013年です。
■今回の研究で苦労したことは?
仮説どおりの結果がなかなか得られず、結論を導き出すのがたいへんでした。また、何千・何万粒の砂を実際に顕微鏡で見て、鉱物の割合や円磨度を調べるのもたいへんでした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
「鳴き砂」の音の判定基準は、様々な計算方法を試みながら定めました。自分たち独自のものなので、見ていただきたいです。また、実験を何度も繰り返して得たデータの多さも見てほしいと思います。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?
『絵解き土質力学』安川郁夫、今西清志他(オーム社)
『いわき市16海岸鳴き砂定点観測実証検査報告書1・2・3』いわき鳴き砂を守る会
■次はどのようなことを目指していきますか?
この研究は部の後輩が引き継いで、音と粒子の物理的性質との関係性をより明確にしていくことを目指していきます。
■ふだんの活動では何をしていますか?
津波班:津波の速さを遅くすることによって、避難可能時間を延ばし、津波の人的被害を減らすことのできる防波堤について研究したり、野外調査をしたりしています。
天文班:太陽電波の観測、天体観測会など
■総文祭に参加して
全国の高校生による優れた発表を見ることができてとても刺激を受け、今後の研究の参考になる部分を得ました。他の研究発表の場とは違う総文祭独特の雰囲気を味わえて、とてもよかったです。
※磐城高校は、昨年度のいばらき総文祭でも研究発表を行っています。くわしくはこちら↓
津波による人的被害をより抑えるためのハザードマップを、さらに強化する
「津波の被害を抑制するための都市構造の研究~いわき市四倉地区を例に~」