2つの山の植生は、土壌の栄養塩類の違いにどのように関係するのか?
【生物/ポスター部門】滋賀県立河瀬高等学校 科学部化学班
(2015年7月取材)
◆部員数 20人(うち1年生5人・2年生4人・3年生11人)
◆書いてくれた人 芝塚太一くん(2年)
■研究内容「粘土と腐植が与える森林土壌への影響」
学校の近くにある彦根山は極相に至った照葉樹林で、荒神山は山頂・ふもとが照葉樹が優占、中腹が針葉樹が優占します。この植生の違いが土壌の栄養塩類に関係するのではないかと考え、栄養塩類を吸着保持する粘土と腐植の関係に着目して研究しました。
(以降、荒神山山頂、荒神山中腹、荒神山麓を、「山頂」、「中腹」、「麓」と表記)
粘土と腐植によって形成されるコロイド粒子に吸着されている栄養塩類のK2、Ca2などの陽イオンは、土壌が酸性になることにより溶脱されているわけではないことがわかりました。陽イオンを吸着、保持する力は、粘土より腐植のほうが大きいので、植生が異なる場所の陽イオンの測定と、CN比、炭素率を求めることにしました。また、実験により吸着されたアンモニウムイオン量から土壌の負荷電量を測定することにしました。
[方法・結果]
測定1.リン酸、カリウムの含有量を土壌診断キット「みどりくん」を用いて測定。
測定2.滋賀県立大学保有のCNコーダを用いてCN値と炭素率を求め、腐植の量を測定。
測定の結果として、腐植が多く、分解の度合いがよく、陽イオンを吸着保持する力が強いのは、
彦根山 >荒神山(山頂 >麓 >中腹)
となりました。
さらに、以下の2つの実験を行い、陽イオンの交換容量を測定しました。
実験A.白濁の度合いから土壌のカルシウムイオン量を測定します。透過率が低いほどよく白濁し、カルシウムイオンを多く含んだ土壌であるといえます。
透過率が低いのは、
(中腹 > 麓 > 山頂) 荒神山 > 彦根山
の順で、カルシウムイオンの量の多さはこの逆順で、
彦根山 > 荒神山 (山頂 > 麓 > 中腹)
となります。
実験B.アンモニウムイオンの量から土壌の負荷電量を測定しました。アンモニウムイオンの量は土壌の負荷電量と対応するため、アンモニウムイオンの量が多いほど土壌の負荷電量が多いといえます。
この結果から、土壌の吸着保持力が強い順は、
彦根山 >荒神山 (山頂 > 麓 > 中腹)
となりました。
これらの結果から、土壌の負荷電量も多く、吸着できる陽イオンが多い順は、
彦根山 >荒神山 (山頂 > 麓 > 中腹)
ということができます。つまり、照葉樹林でありながら、なおかつ植生が多様な森林土壌ほど、陽イオンを蓄えておく能力が高いといえます。
今回の研究から、彦根山は荒神山に比べ、照葉樹が優占し、植生が多様であるため、土壌の負荷電量も増し、吸着保持力が高い土壌であるということがわかりました。
彦根山は映画の撮影で利用されることが多い一方で、観光目的のため樹木の伐採が行われ、自然環境が変わりつつあります。この変化に伴って、土壌の状態がどのように変化するかを継続して研究していくことが必要であると思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
学校の近くに彦根山と荒神山という2つの山があり、植生を調べていくうちに2つの山の植生の違いが土壌の栄養塩類に影響を与えるのではないかという疑問を感じたためです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2012年から1日あたり3時間で、3年と8ヶ月。
■今回の研究で苦労したことは?
夏の暑い中、冬の寒い中、屋外に調査に行くことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
実験の原理についての説明がわかりやすくなるように図を用いたこと。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?
滋賀県立大学の須戸幹教授にご指導いただきました。
[参考文献]
『土壌学の基礎』松中照雄(農山漁村文化協会)
『森林土壌学概論」河田弘(博友社)
■次はどのようなことを目指していきますか?
今後も研究を続け、実験の精度を上げていきたい。また特に彦根山では、映画の撮影で木材が伐採されるなどの人為的干渉が、生物的(ササラダニの生態)・化学的(土壌内の栄養塩類について)にどのような影響を与えているのか調べていきたいと思います。
■ふだんの活動では何をしていますか?
調査に行き、土壌を採取し、実験やササラダニ(環境の指標となる)の同定を行っています。
■総文祭に参加して
全国の高校生へ発表をし、質問を受けることで、自分たちの研究の対しての自信を持って説明する力がつきました。また、他校の研究発表から、それぞれの工夫を学ぶことができ、よい刺激を受けました。私にとって、びわこ総文に出場したことは、とても貴重な体験になりました。今後の活動に活かしていきたいと思います。