おいしいドリップコーヒーの入れ方のセオリーを物理学的に解明する!

【物理】富山県立富山中部高等学校 SS部

(2015年7月取材)

左から横井海星くん(3年)、江尻敬介くん(3年)、
左から横井海星くん(3年)、江尻敬介くん(3年)、

◆部員数 14人 (うち1年生4人・2年生7人・3年生3人)
◆書いてくれた人 横井海星くん(3年)


■研究内容「ドリップコーヒーの濃度曲線に関する研究」

ドリップコーヒーを入れるとき、出てくるコーヒーの濃度はだんだん薄くなっていきますが、いつまでたっても透明なお湯が出てくることはありません。そこで、ドリップコーヒーに注いだお湯の量と出てくるコーヒーの濃度には、何らかの関係式があるのではないかと考え、実験で確めることにしました。

 

関係式を導くために、ドリップ条件を統一しました。市販のドリッパー(2~4杯用)とペーパーフィルターを用い、最初にドリップポットで90~92℃の少量のお湯を注いだ後30秒間蒸らしてから、継続的にお湯を注ぎました。

濃度を測定するために装置を作りました。暗室内で、レーザー光源装置と光電池の間にコーヒーを入れたプラスチックの透明な筒型容器を置きます。この状態で光源から光を照射し、光電池を起電させます。

 

コーヒーの濃度が濃いほど光が散乱されるので、光電池側に届く光は弱くなり、起電力も弱まります。つまり、様々な濃度のコーヒーと水を置いたときとの起電力の差を計算し、起電力の差(ΔV)がコーヒーの濃度に比例していれば、ΔVを濃度と見なすことができるのではないかと考えました。

 

これを確かめるために、実験1を行いました。


コーヒーを100mLドリップし、5本のメスシリンダーにそれぞれ5、10、15、20、25mL取り分け、それぞれ全体が100mLになるようにミネラルウォーターで希釈しました。これで、濃度比が1:2:3:4:5のコーヒー溶液を作りました。

 

各濃度のコーヒー溶液で、先ほどの装置で起電力を計ったところ、起電力の差(ΔV)とコーヒーの濃度は、ほぼ完全な比例関係となりました。


そこで、以降の実験では、起電力の差ΔV(単位:mV[ミリボルト])をコーヒーの濃度として扱うことにしました。

濃度が測定できるようになったので、実際にコーヒーの濃度曲線の式を求める実験に移りました。


最初に挙げた条件でコーヒーをドリップし、出てきたコーヒーを50mLずつビーカーに取り分けます。50mL×15個=750mLずつドリップしてそれぞれの濃度を計り、グラフ化しました。コーヒーの粉の量は10、15、20gの3つの条件で行いました。

ドリップ量と濃度をグラフにしたのがこちらです。濃度は0~200mL付近の間で急激に減少します。濃度をy、ドリップ量をxとすると、曲線は

と累乗関数の形になりました。


λは減少の大きさを表す定数で、値が大きいほど減少が大きくなります。つまり、粉の量が少ないほどコーヒーの初期濃度の減少が激しいという結論になり、これは納得できると考えました。

 

また、aはx=1mLの濃度を示しますが、実験結果では、粉の量が少ないほどaの値が大きくなりました。したがって粉の量が少ないほどx=1mLのときの濃度が大きいという、奇妙な結果になりました。

この結果から、上記の曲線の式が本当に正確なのか疑問に思いました。そこで、濃度曲線の積分値(曲線とX軸に囲まれた部分の面積)によって求められた理論的な平均濃度と、先ほどの実験に使われたコーヒーすべてを混ぜ合わせたものを測定して得られた実験的な平均濃度を比べてみました。

そこで、粉が15gと10gの時の濃度を比べると、実験的な濃度は粉の量が多い方が濃度が高かったのに対し、理論的な濃度値は粉の量が少ない方が圧倒的に濃度が高くなっていました。この結果から、

は適切な濃度曲線ではないことが判明しました。また正確な濃度曲線を得るためには、0~100mLでの詳細な濃度も必要であると考えました。

 

まず、私たちがコーヒーの濃度=水との起電力の差(ΔV)としていたことが妥当だったのかを確認するために、今度は濃度比1:2:3:4:5:…:20までのコーヒーで実験してみました。するとコーヒーの濃度が濃い領域では、コーヒーの濃度と起電力の差は比例関係にないことがわかりました。

 

そこでコーヒーの濃度をy=ΔV+補正量としてその換算量を作成し、改めて実験を行いました。

今度の実験では、最初の100mLを20mL×5に細分して先ほどと同じように実験しました。その結果得られた曲線がこちらです。

 

様々なグラフと比べてみると、この曲線は濃度が高領域では正規分布曲線に近似し、低い領域では指数関数な変化を示していました。正規分布曲線とは、偏差値などのグラフによく見られる帽子型の曲線です。

 

そこでこの二項を足した曲線

 

が、実験結果にとても近い曲線となりました。定数A、B、σ、μには、下図に示すような性質がありました。


私たちはこの式の第一項が、100mL以降は急速に減少するコーヒー本来の成分であると考え、その後支配的になる第二項が、コーヒーの濃度が薄まるほど出てくる雑味成分ではないかと考えました。したがって美味しいコーヒーを入れるためには、雑味成分の項に含まれる定数Bやμを小さくする方法が有効であると結論づけました。


これからも測定装置の精度を高め、測定方法を工夫し、これらの定数の詳細を調べていきたいと思います。

■研究を始めた理由・経緯は?

以前の研究で、レーザーと光電池の間に幾枚かのアクリル板をはさみ、アクリル板の枚数を増やすと発生する電流はどう変化するか調べたものがあります。その結果が、「アクリル板の枚数を増やすと発生電流は一次関数的に減少する」というものであったため、そこからレーザーと光電池を用いて、溶液の濃度を測定できるのではないかと考えました。


また、ドリップコーヒーにお湯を注ぐとき、どれだけ注いでも薄いながらコーヒーが出続けることに疑問を持っていたので、ドリップ量とコーヒーの濃度との間の関係について、レーザーと光電池を用いて研究してみようと思い立ちました。

■今回の研究にかかった時間は?

1週間あたり3日(1日あたり2時間)で7か月ほどです。

■今回の研究で苦労したことは?

当初、私たちはコーヒー濃度と起電力差は比例関係にあり、起電力差がコーヒー濃度の指標として扱えると考えていたのですが、のちに高濃度領域ではコーヒー濃度と起電力差が比例関係にならないことが判明したので、研究の頓挫が頭によぎりました。そこから、起電力差を補正した量を指標とする方法にたどり着くまで、紆余曲折がありました。


また、最終的に得られた近似曲線は私達が使用していた表計算ソフトでは求めることができない二種の関数の和であったため、これを決定するのには手作業で行わねばならず、苦労しました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

前述のとおり、コーヒー濃度と起電力差は比例関係になくてはならないので、それを達成するため、起電力差に補正量を加える、という方法を編み出したという点と、一見近似不可能な曲線に思われた濃度曲線を、手作業により2種類の関数の和として表したという点が、最も工夫したところだと思います。


ドリップ量とコーヒー濃度との関係を式で表したという成果は、前例のない快挙だと思います!

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

ドリップ方法に関して、『なるほどコーヒー学』(広瀬幸雄著/旭屋出版)を参考にしました。ドリップ量とコーヒーの濃度の関係を式で示すという点において、先行研究はないと思われます。

■次はどのようなことを目指していきますか?

今回の研究では、高濃度のコーヒーを任意の倍率で薄め、測定値を同倍率で還元するという操作を行っていますが、これは手間がかかりますし、誤差が発生します。また、起電力差に補正量を加えていますが、これも誤差の原因となります。これらを改善していきたいと考えています。


さらに、今回の濃度曲線では、最初の濃度上昇が記述できていないので、それをも記述できるものを目指していきたいです。


そして、どうしてあのような関係式になったかの理論的アプローチを行い、最終的にはおいしいコーヒーを入れるためのセオリーを確立したいです!

■ふだんの活動では何をしていますか?

複数の班に分かれ、それぞれ様々な大会での入賞を目指し、別々の研究をしています。昨年度は、渦電流の値を求める研究を行い、日本物理学会Jr.セッションで発表しました。校内の文化祭では、物理にまつわる展示や体験会などを行っています。

■総文祭に参加して

全国大会というだけあり、どの発表も、中身、プレゼン力、どこをとってもレベルが高いものばかりで、とても勉強になりました。また、様々な地域の方々と交流でき、とても良い経験になりました。この総文祭に参加でき、本当に良かったと思います!



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