ニホンザルは餌撒きを情報分析で予測していた!
【生物/ポスター部門】大分県立大分舞鶴高校 科学部生物班
(2015年7月取材)
◆部員数16人(うち1年生4人・2年生5人・3年生7人)
◆書いてくれた人 下郡正嗣くん(3年)
■研究内容「高崎山ニホンザルB群の採餌行動の分析」
私たちの学校の近くにある高崎山自然公園では、約60年前からニホンザルに餌撒きを行っています。
私たちは、ニホンザルの採餌行動に注目して観察・研究を行っています。その中で、サルが餌撒きを予測しているらしいということがわかったため、そのことについて発表したいと思います。
高崎山には現在、1516頭というかなり多くの数のサルが住んでおり、今回はその中のB群(701頭)に注目することにしました。
B群は午後になると、高崎山にあるサル寄せ場に集まってきます。そこで、30分に1回コムギのエサを与えられています。サルはサル寄せ場に散らばって過ごしていますが、エサが撒かれる前になると、合図がないにもかかわらず餌撒き場に集まって来ます。また、1日に1回与えられるサツマイモの餌撒きの前には、私たちが「イモコール」と呼んでいる長い特徴的な鳴き声で鳴く複数の個体を観察することができます。
そこで私たちは、「餌撒きを予測するための情報源」と「イモコールの目的」について、サルの行動調査を行いました。
A.移動開始時間調査
まず、前年度の調査から、職員の餌撒きの準備動作が情報源としてかかわっているのではないかと考えました。準備動作は、餌撒きの場の中心にあるバケツを手に取り、餌倉庫に向かって歩く動作です。この動作が見える場所にいる個体が餌撒き場に移動を開始した時刻を調査しました。
実験
a:通常と同様の餌撒き準備動作
b:餌撒き準備動作を10分早く行う
c:餌撒き準備動作を行わない
通常サルは準備動作が始まるころから移動を始めます。動作を10分早めるとサルの行動も10分早くなり、準備動作をやめると餌撒きが始まるまでサルはほとんど行動しませんでした。このことから、やはり餌撒き準備動作が見える場所にいる個体については、動作が情報源となっていることがわかります。
B.個体数変動調査
次に、サルのいる場所を餌撒き場、準備動作が見える場所、準備動作が見えない場所の3つのエリアに分けて、それぞれのエリアにいる個体数の変動を調べました。これにより、群れ全体の移動の様子を観ることができます。
グラフを見ると、餌撒き場が見えない場所の個体のほうが、見える場所の個体よりも早く動いていることがわかります。
見える場所のサルが動き、それを見て、見えない場所にいるサルも動くのであればわかりますが、見えない場所の個体のほうが先に動くということは、準備動作やほかのサルの動き以外の別の情報、つまりサルの鳴き声などを情報源として受け取っていると推測できます。
C.「イモコール」音声分析・頻度調査
餌撒きではコムギ以外に、1日1回サツマイモも与えられます。その時には、大きなサルたちが他では聞かれないような独特の鳴き声(イモコール)を上げます。
私たちはイモコールを録音し、音声スペクトログラムに表してみました。すると、他の鳴き声のスペクトログラムとは異なる波形が見られました。また、1個体 のイモコールを詳しく調べてみると、2種類(α・β)のイモコールがあることがわかったため、2つを聞き分けるために基本周波数と発声持続時間の平均をとりモデルを作成しました。そして1個体を追跡し、どのくらいの頻度でイモコールで鳴いているのかを調べました。すると、α−イモコールが餌撒きの前に局所的に聞かれたのに対して、β-イモコールはイモの餌撒きまで頻繁に鳴かれたことから、α−イモコールが餌撒きの合図になっているのではないかと考えました。
D.「イモコール」再生実験
次に、α−イモコール音声を、いつものサツマイモの餌撒き時間とはまったく関係ない時間に、準備動作が見えない場所にいるサルに聞かせる実験を行いました。
α−イモコール音声を聞かせると、他の音声に比べて移動するサルがはるかに多く見られました。これは他の群れでも同様の傾向が見られました。つまり、α−イモコールは、餌撒き準備動作が見えないサルにとって餌撒きの情報源になっていると考えられました。
以上の結果から、ニホンザルの餌撒きの予測行動は次のように結論付けられます。
・群れの中心部のサル(職員の餌撒き準備動作が見える)は、餌撒き準備動作から餌撒きがあることを予測し、餌撒きが始まる前から餌撒き場に集まってくる。
・群れの周辺部のサル(職員の餌撒き準備動作が見えない)は、「α−イモコール」などの群れの中心部の個体の鳴き声で餌撒きを知り、餌牧場への移動を開始している。
本来、野生のニホンザルはエサを直接見てから行動するのに対して、高崎山のニホンザルはエサを予測して動き出すという、餌付けされることによる採食行動の進化が起こっていることがわかりました。今後の課題として、群れをサル寄せ場に集める人工音声を作成してみたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
本部活では、6年前から高崎山でニホンザルの行動観察を継続しています。私たちもニホンザルの研究を引き継ぐこととなって、テーマを決めるために高崎山へ観察に行った時
1.サルが餌撒き前に合図なく動いていた
2.サツマイモの餌撒き前に独特な声で鳴いていた
という2点に疑問を持ち、それまでの「石遊び」行動の研究からテーマを変えて研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
情報伝達の研究は2013年~2015年春。週に1~2日高崎山に行き、その他の平日はデータ整理などをしました。
■今回の研究で苦労したことは?
高崎山のサルは季節によってはサル寄せ場に来ません。調査に行ってもサルに出会えない時もありました。サルの行動は複雑で、小さな環境変化によって群れの行動がいつもと違うこともありました。行動分析が難しかった。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
サルの鳴く頻度を表すためにバーコードグラフを作成しています。調査では7人全員で協力して1分間隔のスキャンサンプリングをしました。広いエリア担当の人は90分間に90回、100m走を行なうくらいの移動をしていました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?
『野生動物の行動観察法』井上英治 他(東京大学出版会)
『高崎山のサル』伊谷純一郎(講談社学術文庫)
■次はどのようなことを目指していきますか?
同じ山に生息するC群を調べて、同じような傾向があるのかを調べてみたいと思います。また、他の餌付けされた地域でも同じ行動変化があるかについても調べたいと思います。サルを呼ぶための人工音声も作ってみたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
4~11月はグループ研究をしています(ex.1年=カイコ、2年=ニホンザル)。
11~3月は、個人が興味のある研究 (イモリの菜食行動、ミドリムシの増殖の研究、コウボ培養、別府の川の生物調査、ニホンザルの色覚、カラスの行動研究など)をしています。また、飼育生物の餌やり等(イモリ、金魚、カイコ…)もしています。
■総文祭に参加して
全国大会ということで研究もおもしろいものが多くて、発表を聞くのが楽しかったです。説明も丁寧にでき、おもしろさが伝えることができたので、とても楽しかったです。
大分舞鶴高校の発表は、ポスター部門の奨励賞を受賞しました。