金属と酸の反応速度を「強酸ゼリー」でコントロール。手作りの装置で強度の測定も!
【化学/ポスター部門】兵庫県立川西北陵高等学校 自然科学部
(2015年7月取材)
◆部員数 6人(うち1年生1人・2年生2人・3年生3人)
◆書いてくれた人 林寿光くん(2年)
■研究内容「強酸ゼリーの開発と性質」
私たちは、以前から金属と硝酸の反応や錯イオンに関する研究を行ってきました。その中で、金属と酸は非常に速く反応が進みますが、これを遅くできればより詳細な反応の過程を知ることができるのではないかと感じてきました。そこで、酸をゲル化して水素イオン等の拡散速度を遅くすることができれば、強酸の性質を保ったまま反応速度だけを遅くすることができるのではないかと考え、強酸ゼリーの開発、およびその性質について探ることにしました。
実験1 ゲル化剤の選定
強酸のゲル化剤はまったく知られておらず、寒天をはじめ様々なゲル化剤を試した結果、唯一ゲル化したのはHMペクチンでした。
ペクチンは多糖類でその分子鎖は負の電荷を帯びており互いに反発しあっています。強酸溶液は水素イオンが非常に多く、負の電荷を帯びている部分に結合しやすいため、ペクチン分子が部分的な結晶を起こしやすく、ゲル化に必要なショ糖などの可溶性固形分がなくてもゲル化したと考えました。
そこで、強酸ゼリー作成におけるHMペクチンのゲル化条件を詳細に特定するために、以下の実験を行いました。実験では、様々な濃度の酸を20mlずつシャーレに入れ、ペクチンを加え、スターラーで溶液中にしっかり分散させ、インキュベーター内で静置し、ゲル化に要する時間を計測しました。
実験2 強酸の濃度とゲル化時間
酸の濃度が高くなるにつれて、ゲル化に要する時間は短くなりました。硫酸が最もゲル化に要する時間が短いのは、溶液内の水素イオンの差が影響したと考えられます。また、硫酸8.0~11mol/Lでは硫酸の脱水作用が強くなり、ペクチンの分子構造が変化してゲル化しなかったと考えられます。
このことから、各強酸を同一濃度で確実にゼリー化するためには、強酸の濃度を7mol/Lに設定することが妥当と判断しました。
実験3 ゲル化時間と温度
温度が高くなるにつれてゲル化に要する時間は短くなる傾向が見られました。これは、温度が高いほど水の蒸発量が多くなり、結晶化が起こりやすくなるため、ゲル化に要する時間が短くなったと考えられます。また、硫酸が他の酸に比べてゲル化に要する時間が短いのは、溶液の揮発性や粘性の差によるものではないかと考えられます。
実験4 ゲル化時間とペクチンの濃度
どの酸においても、ペクチン濃度が高くなるにつれてゲル化に要する時間が短くなる傾向が見られました。ペクチン分子が増えることにより、部分的な結晶化を起こす部分が多くなり、ゲル化に要する時間が短くなったことが考えられます。また、ゲル化には濃度だけの問題でなく、ペクチン分子が酸溶液中にしっかりと分散することが重要であると考えられます。
実験5 金属との反応
次に私たちは強酸ゼリーと金属を反応させました。結果は写真のようになり、すべての金属において溶液と同様の反応を示しました。
また、イオンの検出において、反応面で生じたイオンは検出薬によってはっきりとわかり、生じたイオンが反応面にとどまっていたことから、物質の拡散速度が遅くなっているといえます。また、強酸ゼリーは反応部分で分割することが可能なので、同じ実験条件下での生成物の特定ができるという利点があります。
実験6 強度実験
ゼリーの強度測定はとても困難なため、私たちは注射器からゼリーを押し出す力をゼリーの強度とし、図のような装置を作製しました。
塩酸では濃度が高くなるにつれてゼリーの強度が低下します。硫酸、硝酸ではある濃度まで強度が増しますが、その後低下しました。濃度が高くなると、水素イオンによりペクチン分子の反発が緩和され、部分的な結晶化を起こす部分が増え、強度が増したと考えました。また、高濃度の硫酸、硝酸では、脱水作用や酸化力によるペクチンの変性が起こり、強度が低下したと考えました。
以上から、この研究のまとめは以下のとおりです。
・強酸のゲル化にはHMペクチンがもっとも有効である。
・ペクチンのゲル化に要する時間は、酸の濃度、温度、ペクチン濃度に依存する。
・強酸ゼリーは金属との反応において、気体の発生や金属イオンの生成など溶液と同様の反応を示す。
・強酸ゼリー内の物質は拡散速度が遅くなる。
・強酸ゼリーは反応時に条件を揃えることが容易である。
今後は、強酸ゼリー内で物質の拡散速度が遅くなることを用いて、鉄の不動態形成における振動現象の反応の詳細な解明を行うことを課題としたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
これまでの研究の中で、強酸と金属は反応が非常に速く起こり、その反応の詳細を調べることができませんでした。そこで強酸と金属の反応を遅くし、生じた物質が拡散する前に調べたいと思い、強酸を液体からゼリー状にすることでそれが可能になるのではないかと考え、今回の研究のテーマとしました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日2~3時間で8か月
■今回の研究で苦労したことは?
公立高校の実験室のレベルで行える実験方法を確立すること、実験条件をそろえ、結果に正確性を持たせることに苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
強酸ゼリーの強度を測定したいと思いましたが、装置が非常に高価で購入が不可能だったため、自分たちで強度の定義を決め、その強度を測定するための装置を身近で入手可能な機材を使って作成し、実際にその装置を使ってゼリーの強度を測定することができたこと。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?
・『Food Hydrocolloids VolumeⅢ』Martin Glicksman
(全て英語で書かれた本なので、読むのに苦労しました)
・『水溶性・水分散型高分子材料の最新技術動向と工業応用』(日本化学情報出版)
■次はどのようなことを目指していきますか?
私たちの高校がある地域の特産物である「菊炭」についてその性質や他の炭との違いや特徴を調べ、地域の特産物の有用性を科学的に証明していきたいと考えています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
地域の小学生を対象にした実験教室を実施し、科学の楽しさを伝える活動を行っています。ウミホタルや液体窒素を用いた実験など、新しい実験の開発を行っています。
■総文祭に参加して
どの学校も研究内容が高度でレベルが高いと感じました。また、発表の方法も工夫が凝らされていて学ぶことが多かったです。今回は受賞を逃しましたが、今回の出場を糧に、次の研究、発表を頑張っていきたいと強く感じました。