「高校生でも研究やろうよ!」という空気とその環境を作ろう
~高校生遺伝子研究者・片野晃輔くんの挑戦
(2015年8月取材)
「遺伝子研究者」の片野晃輔(かたのこうすけ)くん。彼は、「融合タンパク質を用いた部位特異的DNA修飾技術」の研究を志す高校2年生です(取材当時)。学校で研究をしたいと主張しても「高校生は受験勉強すべき」と取り合ってもらえなかったことから、みずから研究の環境を開拓していきました。大学や研究機関などにアプローチをかけ、現在は株式会社リバネスで研究を行っています。
オジギソウ研究は自信と研究の魅力を与えてくれた
ぼくが研究を志したきっかけは、中学3年生の夏に行ったオジギソウの研究です。オジギソウは、刺激を受けると丸まって、まるでおじぎをするように見えるのですが、ぼくはいろいろな刺激をオジギソウに与えて、おじぎの仕組みについて調べました。触ってみたり、熱や光を与えてみたりして、「オジギソウが何を敵とみなし、丸まるのか」について研究しました。
このアイディアが面白いと言われて「木原記念こども科学賞」の優秀賞をいただくことができました。それまでのぼくには成功体験といったものがなく、はじめて自分に自信を持つことができました。同時に、研究というものに強く惹かれた出来事でもありました。
そして今ぼくが取り組んでいるのは、がん治療に応用できる「融合タンパク質を用いた部位特異的DNA修飾技術」の研究です。簡単に説明すると、2種類のたんぱく質を組み合わせることによって、自由にたんぱく質を作り、異常のあるDNAを直す仕組みを作っています。
この研究テーマの原点となったのは、塾の合宿に参加した中学生のときのある出来事です。友達はアレルギーが原因で夕食に出された蕎麦を食べることができませんでした。世の中には美味しいものがたくさんあるのに、アレルギーによって人の幸せのひとつが奪われているのを目の当たりにしたのです。このときから、アレルギーの根本治療法を考え始めました。
諦めずにさがし続けること
高校に入学後、すぐに科学部に所属しました。しかし、設備の問題でぼくがしたい研究はできないことがわかりました。周りからは、「受験に役立たないことしてどうするの?」とも言われました。
でも「これ何の役に立つの?」というような研究にぼくは面白さを感じます。他の人には意味がわからなくても、ぼくにとっては面白いものが世の中には溢れています。
高校でダメなら、大学や研究機関にアプローチしようと思い30人ほどにメールを送りました。何人かの方々には返信をいただき、中にはセミナーに招待してくださる方もいました。しかし、研究するための環境は手に入りませんでした。
ある日、知り合いの方に「研究したいなら、こんな所があるよ」とリバネスという会社を紹介してもらいました。リバネスというのは物理系や医学系や様々な研究を行っている博士たちがたくさんいる会社です。
恐る恐るメールをして、自分のしたい研究を伝えてみると、リバネスで研究ができることになりました。当時、リバネスでは高校生向けの研究室を立ち上げているところで、タイミングがよかったみたいです。研究や実験のしかたを教えてもらう代わりに、ぼくは研究室の初代部長として頑張ったり、リバネスの実験教室を盛り上げたりしてきました。
リバネスでは、高校生用の研究室より先に、小中高生向けの実験教室というものがあります。大人とは違った子どもならではの視点を持っていて、新しい発見がたくさんあります。
ギークの世界にふれた中学校時代
小学生の時のぼくはというと、異常にゲームが好きでした。学校から帰ると狂ったようにしていましたね。母親に何度も怒られるヘビーゲーマーでした(笑)。そして、ゲームをやりながら「このゲームを作っている人がどこかにいるんだ!作っているのはどんな人なんだ!」と思い始めて、プログラミングというものに興味を持ち始めていました。
中学生のときに、プログラミングをやっている鎌田くんという友達に出会いました。お互い性格は反対だったんですが、出会ったときに「こいつやべーぞ!」とお互い感じていたみたいで(笑)、すぐに仲良くなりました。彼と出会ったことをきっかけにぼくもプログラミンを始めて、一緒にウェブサイトを作ったりしました。「賞金もらおうぜ!」と2人で盛り上がり、いくつかの大会に制作物を出すなどしていました。
中学2年のときには、科学部に入部しました。そこには鎌田くんもいて、面白いことをいくつもしました。例えば、部室にエアコンが付いていなくて腹がたち、「部屋を冷やしてやろう」って部員たちでエアコンを作ったことがあります。子ども向けの大百科を小さい頃から読んでいたので、作り方は知っていました。ペットボトルをいっぱいつなげたもの、空気入れ、そして空気を冷やす冷媒があればエアコンは作れるんです。これを大規模にやって、みんなで冷たい空気を楽しみました(笑)。
日本で、年齢に関係なく研究できる環境を作りたい
「日本で研究できないなら、外にでてみたら?」とよく質問されるんですが、ぼくは日本で研究したいと考えています。日本では若い人たちが研究を行える環境が整っておらず、研究は大学からになっています。海外に出れば、研究環境は整っており最先端の設備の中で研究をできるのは間違いありません。
しかし、日本の教育水準が高いといわれています。だからぼくは、海外と同じように日本でも高校生の段階から立派に研究ができると思っています。ぼくはその先頭に立って「高校生でも研究やろうよ!」という空気と、そのための環境を日本で作っていきたいんです。
ぼくが実際に高校に入って2年間研究できないという辛い思いをしていたので、ぼくより若い人たちにそういった思いをさせたくありません。これからは、知的資源で勝負していく時代だと感じています。そのために年齢関係なく研究できる環境を日本でも作っていきたいと思っています。
<取材後記>
「面白いものが世の中には溢れている」に共感
「ギークはかっこいい。」このセリフを取材中に何度きいたかわかりません(そして、彼の携帯カバーには大きく”GEEK”と書かれていました)。片野くんがいった「他の人には意味がわからなくても、ぼくにとっては面白いものが世の中には溢れています。」この言葉には思わず頷いてしまいました。
そういった他人にはどうでもいいけど、自分がどうしようもなく興味を持ってしまうものは誰しもが持っていると思います。そして、そこには強い面白さがあるはずです。ぼくの最近のそれは公衆電話で、ガラス張りの建築に魅了されて、近頃はその写真ばっかり撮っている自分がいます。
一見すると意味のなさそうなもの、何の役にも立たなそうなものは、それに対して興味を持ってしまった人には、とてつもなく鮮やかに映ります。他人にとってなんでもないものを「面白がれる能力」というのは、日常にちょっとした幸せをふやすコツのようなものだと取材を通して考えました。
そして、片野くんの諦めずに研究環境を求め続ける姿勢を知り、おもわず彼に向かって「ギークってかっこいい。」と、つぶやいてしまっていました。(新造真人)