(2014年7月取材)
◆部員数40人(1年生13人、2年生23人、3年生4人)
◆答えてくれた人 高瀨伶音くん(3年生)
充電して繰り返し使える二次電池。今回はその一種である鉛蓄電池の充放電効率を研究するため、充電した電気を放電時に何%取り出せるか、また、充電を重ねるとどのように変化するかを調べました。
<実験方法>
(1)正極・負極にPb (鉛)板を用いた二次電池で、充電電流を一定に制御して、25回充放電を繰り返しました。
(2)次に、電気量(C)を変化させて充電しました。充電条件は6.8Maで2分、6.8mAで3分、10.8mAで2分、10.8mAで3分の4パターンとしました。
<実験結果>
◇充放電の回数と充放電効率
初期の充放電では充放電効率が極めて低いが、その後は上がり続けて10回以降にほぼ安定し、70~80%を維持します。最も効率が良いのは、充電電気量が最大の10.8mAで3分の場合でした。6.8mAで3分と10.8mAで2分充電した電気量は同じでしたが、後者のほうが効率は良くなりました。しかし、10回目付近で極端に充放電の効率が下がり、他にも落ち込む箇所が数回ありました。
左は、負極の電子顕微鏡写真です。
充放電を繰り返すと、負極では放電後に生じるPbSO4(硫酸鉛)の結晶が成長しました。教科書には、「充電によりPbSO4がPb(鉛)に変化する」とありますが、実際は充電後もPbSO4がPb板全体を覆っていました。
一方正極では、充放電を繰り返すと充電後のPbO2(二酸化鉛)の結晶が大きく成長しました。教科書には放電によりPbO2がPbSO4に変化するとあるが、実際にはほとんどのPbO2が残っていました。
初期の充放電効率が低いのは、正極におけるPbをPbO2に変化させる反応が原因で、そのため初期の充電に高い電圧が必要と思われます。そしていったんPbO2ができれば、充放電を繰り返すたびにPbO2の結晶が成長し、10回以降の充放電効率が高くなって安定すると考えられます。
負極に成長したPbSO4の結晶は絶縁体ですが、なぜか放電効率は上昇しました。その理由は、繰り返される充電で正極のPbO2の結晶が成長して表面積が増加し、充放電効率が上がったためと考えられます。
10回目付近などに大きな充放電効率の低下があったのは、正極のPbO2の剥落により、PbO2の表面積が減少したことが原因と考えられます。
実験中に、充電開始直後の電圧が急上昇→下降→維持→上昇→安定という現象が見られました。電流を一定にしているのに、電圧が変化した理由は今回は疑問のままです。
今回は完全放電後に充電を行いました。一般には完全放電により電池の性能は低下するといわれているので、今後は放電電気量を変化させて測定したいです。また、一定電流で充電を行いましたが、本来は電圧一定で行うことが多いので、充電電圧と充放電効率の関係を調べていきたいです。
※表示の関係で、文章の中では、化学式の原子の個数を示す元素記号の右下付き添え字が小さく表示できていません。ご了承ください。
■研究を始めた理由・経緯は?
1年生の時、充電できないダニエル電池の研究をしたので、今度はくり返し充電できる鉛蓄電池について研究してみたいと思いました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日3時間、総計で50日くらいです。研究期間は全体は約半年間でした。
■今回の研究で苦労したことは?
測定機器の使い方が難しく、電流、電圧等の再現性のある測定方法の確立に苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
充電する電気や放電する電気は、正しくは電気量といいます。
電気量(C)は電流(A)×時間(s)で表され、(C)はクーロンという値です。研究で一番必要なことは、この充電電気量を一定にすることでした。学校には、ガルバノスタットという機器があり、一定電流を流して充電できたため、同じ電気量で充電する再現性のある実験ができました。
一方、放電する時の電流値は変化し、時間も1回ごとの計測で変わります。これらの電流値と時間はデータロガーという機器で測定し、その面積を求める機能で電気量を求めました。言葉で言うと簡単そうですが、正しいデータを得るのには、これらの機器をいかに使いこなすか!ということがカギになるので、繰り返し測定を行いました。
※データロガーはSpark(島津理化)を使用しました
■ふだんの活動では何をしていますか?
物理・化学部は6班に分かれ、それぞれが研究テーマをもって研究しています(色素研究班、一滴の体積研究班、ししおどし研究班など)。
■総文祭に参加した感想を聞かせてください。
賞をいただけたのは大変嬉しかったですが、他の学校の研究を見ると、自分たちよりすばらしい研究や考察をしている学校がたくさんあると思いました。また、サイエンスカフェや研究所の視察などで、研究者の方々の話やプレゼンを間近で知ることができてよかったです。
※静岡県立浜松北高等学校は化学部門で奨励賞を受賞しました。
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◇身近な材料で『エネルギー』を創り出そう!
小久保 尚先生 横浜国立大学 理工学部 化学・生命系学科