ロボットの先端技術 <いばらぎ総文祭 産総研講演>

人間と共に、さらに人間の働けない環境で…ロボットの活躍の場はさらに広がる

講師:産業技術総合研究所 知能システム研究部門 横井一仁先生

(2014年7月取材)

横井一仁先生
横井一仁先生

皆さんは「ロボットとは?」と聞かれたら、どんなものを思い浮かべますか。最近SoftbankがPepperを発表して話題になりましたが、現在実用化されているロボットにはいろいろなものがあります。家庭に入ってきたロボットとしては、お掃除ロボットがそうですね。産業用ロボットは広く取り入れられていますし、医療ロボットというのもありますね。最近の医療ロボットは非常に複雑な働きができるようになり、お医者さんが手を動かすと、その10分の1、100分の1の細かさでロボットの先端が動く、というものがあります。ですから、今まで人の手で行っていた以上に細かい手術が行えます。また、最近Amazonが打ち出しているのは、ロボットのヘリコプターで商品を届けようというものです。このように、ロボットの世界はいろいろと広がりを見せています。

 

「ロボット」は登場してまだ100年足らず

 

少し歴史的な話をします。ロボットという言葉が最初に登場したのは、1921年にカレル・チャペックというチェコの作家の書いた「R.U.R」(Rossum's Universal Robots)という戯曲です。ですから、まだ生まれて100年経っていない、非常に新しい言葉です。元は人造人間=Robotというチェコ語の労働者を表す言葉で、どちらかと言えば人間に近いイメージでした。

 

一方、「ロボット」自体はもっと前からありました。機械式の時計などが発達して、ぜんまいや歯車といったものが生み出されてくると、何か自動的に動くものを作ろうということになり、19世紀に西洋では自動人形、日本ではからくり人形として発達しました。

 

実際に工場で働くロボットの原点は、1954年にアメリカで特許が出願された「Programmed Article Transfer」です。これは、教示(teaching)と再生(playback)によって、物を置いたりつかんだりする(「put and take」)プレイバックロボットの概念です。先ほどのからくり人形と違うのは、後から動作を教えることができ、そしてそれを再生することができるというところです。からくり人形は、ぜんまいや歯車を精巧に組み合わせてあるので、一度作り込んでしまうと同じことしかできません。しかしこの「Programmed Article Transfer」は、後から動作を教えて、それをまた繰り返し再生することができるというところが新しいのです。

 

「Programmed Article Transfer」は概念だけでしたが、1958年にアメリカの会社がデジタル制御によるAutomatic Programmed Apparatusのプロトタイプを発表しました。これをベースとして、1962年にアメリカの会社がプレイバックロボットの実用の第一号機を作りました。だから言葉ができて100年足らず、産業用のロボット自体ができてからでもまだ約50年というのがロボット技術の歴史です。

 

人型ロボットには「何を教えて、何ができるか」が重要

 

産総研では、人型(ヒューマノイド)ロボット「HRP-4C未夢(ミーム)」も開発しています。なぜこういった人型ロボットを作るかというと、この人間の形であるところが魅力だからです。ただし、こういったロボットを作るだけではダメで、人間に対してさらに魅力あるコンテンツを作らなければならないと考えています。先ほどの「Programmed Article Transfer」の話で言えば、「何かを教えて、それを実行できる」ということの、「何を教えるか」というのが重要なのです。例えば、皆さんが使っているスマホのハードウエアがいくらよくても、中にLINEなどのアプリケーションが入っていなければ誰も使わないですよね。そういったコンテンツも含めて開発するということが重要だと考えています。

 

「未夢」は自立型ロボットで、立ったり外を歩いたりといったようなことも、顔の表情を変えることができます。そこで、いろいろな方とコラボレーションして、例えば、モデルをやったり、歌って踊ったりといったようなこともしています。横浜であったAPEC2010では、未夢がオバマ大統領に挨拶しました。私は横にいたのですけど、ちょっとドキドキでした(笑)。このような場面ではみんな緊張しますが、ロボットは全然緊張しないし、間違えません。教えたことをそのとおり実行するだけですから。

 

人型ロボットの役割りは、人を楽しませるばかりではありません。例えば、スマートスーツという腰痛を予防するスーツがあります。老人介護でのベッドの移動や農作業など、様々な作業で腰にかかる負担を軽減することができるのです。それを装着するとどのくらい効果があるのか。あるいは、A社のスーツとB社のスーツのどちらが有効性があるのか、ということは、従来は人がスーツを装着して感覚的に判断していました。ところが、こういった実際の人間とほぼ同じサイズのロボットができたことで、そこで評価を数値で計測する、というようなこともできるようになりました。

 

「高所調査用ロボット」 産業技術総合研究所HPより
「高所調査用ロボット」 産業技術総合研究所HPより

原発事故の現場でも活躍する産総研のロボット

 

東日本大震災後、福島第一原子力発電所の事故現場では、現在も廃炉に向けた作業をしていますが、内部は非常に放射線量が高いので、人が入ることができません。

 

そのため福島では、遠隔操作型ターンナップクレーンが活躍していています。また建物の中の調査には、小型のロボットもいくつか使われています。Hondaと産総研も、「高所調査用ロボット」という遠隔操作のロボットを開発して使ってもらっています。私もこの開発に関わっています。このロボットは、原発の中を走っている時は、背が低く幅も狭い状態です。本体には周りの環境を測定する装置がついていて、現場に着いて、障害物がないということを確認したら、たたんでいたアームを伸ばしていきます。最終的には、高い所に手を突っ込んで、そこの放射線の量はどれくらいか、装置が壊れていないかということを調べます。

 

実際に福島第一原発の放射線量を調べた際に、これまでは床上1.5mくらいのところまでしか測れていませんでしたが、我々のロボットを使うことによって、最高4mくらいの高さのところまでの放射線量がわかるようになってきています。

 

このロボットが1回発電所内に入ると、だいたい40ミリシーベルトくらい放射線を浴びます。今、原発で作業する方は、5年間で100ミリシーベルト、1年ですと50ミリシーベルトが線量限界です。ロボットは、2日で人間の5年分の被ばくをしていることになります。こういった人間には危険な環境でも、きちんと作業できるのがロボットの利点です。

 

ロボット技術というのは、情報技術やエレクトロニクス、機械技術など幅広い要素技術を複合することでできています。それだけではなくて、ロボットが普及することで、最近は社会学や経済学、心理学、哲学の視点からの課題も生まれています。皆さんはこれから大学に入って専門的な知識を得ていきますから、それぞれの分野の視点からロボットというものに関わることができます。それを通して、ロボットと人間の幸せな未来を創っていただきたいと思います。

 

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