(2014年7月取材)
◆部員数9人 (1年生4人、2年生3人、3年生2人)
◆答えてくれた人 三浦昌平君(3年生)
私たちは2010年から山形県鶴岡市添津の水田土壌中に棲む発電微生物について研究しています。
この微生物は嫌気状態の土壌中に棲息し、有機物を分解してエネルギーを得るときに電子を放出します。そのため、負極を土壌中に埋め込み、正極をその上の水中に沈めると、負極付近に棲む微生物が放出した電子を受け取ることで両極間を電子が流れ、発電することができます。
私たちは、この微生物の発電のメカニズムを解明する研究を行い、新たなエネルギー資源としての可能性を探りたいと考えています。昨年、分離した鉄還元型菌株2種類が発電微生物であることを確かめました。
今年度は、非鉄還元型菌株が発電するかを検証しました。また、どのような経路をたどって発電を行うか詳細に特定するために、電子伝達物質であるメディエーターを透過できる透析膜を用いた実験をして、負極へ電子を渡すシステムの解明を試みました。
その結果、非鉄還元型細菌は電子の受け渡しにメディエーターが必要なメディエーター型、鉄還元型細菌は接触して受け渡し、かつ、メディエーターを介しても電子を負極に受け渡す両方の様式を兼ね備えたハイブリッド型と判定しました。
次に、これまで使っていた添津の水田土壌以外の土壌でも発電が起こるかどうかについて調べました。すると、どの土壌でも発電が起きるものの、添津の水田の土壌が最も発電が大きいことがわかりました。
さらに、発電効率を高めるための方法を検証するために、土壌に廃棄物を加えて発電量を調べました。
まず、土壌に キャットフードを入れた場合と入れない場合を比べると、キャットフードを入れた方が電圧が高くなります。これは、キャットフードに含まれる油脂が水面に膜 を作って空気中からの酸素の供給が妨げられたこと、腐敗により雑菌が大量に発生して、酸化剤である酸素が奪われ、正極に十分な酸素がまわらなかったためと 考えられます。
そこで、以前の実験で土壌に単糖類であるグルコースを加えると電圧が上昇したことから、紙ごみとデンプンを加えて実験を行いました。
すると、何も入れない場合より多糖類を加えた方が電圧が高くなり、特に紙ごみ(セルロース)は長期的に発電を高めるために有効であることがわかりました。
さらに、発電装置の正極を水面近くに浮かせた形にすることにより、大気中の酸素を取り込めるようになることから、発電効率を1.2~6倍増加させることができました。
■研究を始めた理由・経緯は?
私たちの身近に水田が多くあり、水田での微生物を利用した発電が実用化できれば、新たなクリーンエネルギーとして地球温暖化防止などに役立つのではないかと考えました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
今回のデータは2013年9月1日〜2014年6月30日のものですが、この研究自体は、2010年より現在にいたるまで先輩方から引き継いで研究を行っています。
■今回の研究で苦労したことは?
培地型電池の実験で、単菌株を入れて実験していたので、他の菌体を入れないように滅菌して作業することや、培地作成などの下準備が大変でした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
・微生物本体と電極を隔離する目的で、透析膜を用いました。
・発電装置の正極構造を見直したことで、発電効率を1.2~6.0倍にアップすることができました。
・廃棄物のモデル実験として、キャットフードと濾(ろ)紙、デンプンを用いたこと。キャットフードは、栄養素を均一かつ多様に含み、計量しやすくばらつきがないので、実験に適していました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?
ApplMicobiolBiotechnol (2008)79:43-49
Plant/microbe cooperation for electricity generation in a rice paddy field.
Nobuo Kaku,NatsukiYonezawa,YumikoKodama,Kazuya Watanabe
■次はどのようなことを目指していきますか?
・実際に制作した比較的大規模な水田(1m四方)と、用水路に電極を敷設し、発電実験を行います。
・微生物にどのような基質が有効か、さらに確かめます。
・実用化を目指して発電装置の構造の見直しを行い、発電効率の上昇を図ります。
■ふだんの活動では何をしていますか?
研究発表会への参加、論文の応募、個人研究、文化祭(研究発表、児童向け科学実験)
■総文祭に参加した感想を教えてください。
どの研究も選りすぐりのものばかりで、大変良い刺激を受けました。また。プレゼンテーションの仕方に工夫のある高校が多く参考になりました。