(2014年7月取材)
◆部員数 30人(1年生10人、2年生9人、3年生11人)
◆答えてくれた人 荒木誠一朗君(3年生)
ボルタの電池は、ふつう電解質となる希硫酸に、亜鉛板と銅板を入れて導線でつないで作りますが、電解質に食塩水=NaCl水溶液を使えば、小学生でも簡単に実験ができます。しかし、NaCl水溶液を用いた場合の正極反応は、実はあまりよくわかっていないので、そのメカニズムを調べました。
溶液を寒天で固めて反応を可視化することで、正極では
の反応が起きていることがわかりました。具体的には、フェノールフタレイン溶液をたらしたNaCl水溶液を寒天で固め、亜鉛板と銅線をさして両極をリード線でつないで反応を観察しました。
また、空気中の酸素が供給できる時と、表面を油で覆って酸素が供給されない時を比較すると、最初は両方とも銅線の周りが同じように赤くなり、同じ電流量が発生したことから、溶液中に含まれる酸素によって
の反応が進行していることがわかります。
しかし、時間が経過すると、空気中から酸素が供給される時には空気に近い銅線の上部を中心に濃い赤色になることから、空気中の酸素が反応していることがわかります。一方、空気を遮断した方は電流量が大きく減少し、銅線の上部の色も濃くならなかったので、酸素の供給がないと反応が継続しないことがわかりました。
また、銅板の水溶液と空気の境界になる部分にマニキュアを塗って水溶液や空気に触れないようにすると、電流の量も水酸化亜鉛の生成量も非常に少なくなりました。このことから、正極では主に銅板・空気・水溶液の三境界面で酸素が供給され、酸素還元反応が起こることがわかりました。
さらに、一定時間内の電流量の変化を、エアポンプで酸素を供給し続けた電池、NaCl水溶液を沸騰させた後油で表面を覆った電池、銅板の水溶液と空気の境界部分をマニキュアで覆った電池、何もしない電池の4つで比較しました。すると、酸素の供給を受けた電池は電流の発生量が非常に大きいことがわかりました。
また、「何もしていないもの」のグラフで、電流量が上下している部分がありました。この時間帯はちょうど化学教室で実験を行っていたので、室温変化の影響を受けたことが考えられます。
そこで、途中で溶液の温度を変化させて電流の発生量を比較しました。すると、溶液の温度を上げると反応速度が大きくなり、電流量が増加することがわかりました。
■研究を始めた理由・経緯は?
地元の旭川市科学館「サイパル」で化学実験のボランティアをさせていただいた際、隣のブースで実験をしていた大学の先生がこの電池を使っていました。それを見て、顧問の先生が「あの電池、実験でよく使うけど反応がわからないんだよなー」とおっしゃっていたので、反応が気になり、実験書やネットを調べても書いていなかったので、調べようという話になり、この実験を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
研究を始めてから,2年3ヶ月くらいです。ふだんは週3日、9時間くらいの活動ですが,夏休みは発表論文をまとめるため基本的に毎日活動しています。
■今回の研究で苦労したことは?
かなり反応がぶれやすいので、電流量を測る際苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
溶液を寒天で固めたことで反応を可視化し、わかりやすくなったり、より詳しく反応を観察できた点です。また、空気を遮断するのに何かいいものはないかと探していたら、女子が「マニキュアはどう?」と偶然勧めてくれたのを使ったのはヒットでした! 百円ショップで買えるし、塗りやすいのでとても便利でした。
■今回の研究は今後も続けていきますか?
この電池の反応をより深く調べるために、温度ごとでの電流量を測ったり、安定したデータを得たりできるよう工夫していきます。
■ふだんの活動では何をしていますか?
いくつかのグループでそれぞれ違う研究をしていますが、研究をしていない時は学校祭やボランティアで行う実験の予備実験などをしています。
■総文祭に参加した感想を教えてください。
非常にレベルの高い実験ばかりで、いい刺激になり、また発表もわかりやすかったので、自分達が発表を行う際の手本になりました。このような大会に出させていただいたことに感謝すると共に、これからも精進していこうという気持ちになりました。
※旭川東高校は、ポスター・パネル部門で奨励賞を受賞しました。
■旭川東高校の化学部は、研究発表の化学部門にも参加しています。田谷友里恵さん(3年生)が答えてくれました。
■研究テーマ 「陽極に炭素棒を用いた水の電気分解」
■ふだんの活動では何をしていますか?
学校祭(東高祭)での演示実験や体験実験が中心ですが、地元の科学館などでの小学生向けの科学のイベントのボランティアをしています。また、部員が何かで見たり聞いたりして急にやりたくなった実験にチャレンジしています!
■総文祭に参加した感想を教えてください。
はじめは会場の大きさや人の多さを見て不安になりましたが、発表が始まると、聞きたい研究がたくさんあり、質問もできたりして、とても楽しかったです。特に、研究の内容が素晴らしいだけでなく、発表のわかりやすい研究には興味が湧きました。また、様々な研究をしてきた同世代の人達と交流できたのはとてもおもしろかった。総文祭に参加して、改めて科学のおもしろさを感じ、科学を通していろいろな人に会えてとても楽しかったので、今後も科学の勉強・研究を続けて行きたいと思いました。
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小久保 尚先生 横浜国立大学 理工学部 化学・生命系学科