(2014年7月取材)
発表する吉橋佑馬くん(3年生)
変形菌というのは原生動物の一種で、胞子で増える菌類的な特徴と、餌を求めてアメーバのように這いまわる(=変形体)動物的な特徴を持った生物です。食物を置いた場合など、刺激の方向に菌が動いていくことを“正の走性”といい、光や酸などを置いた場合など、刺激の反対側へ菌が動いたり、阻止円をつくることを“負の走性”といいます。
小学3年から継続している研究で、菌には食物の好き嫌いがあって、嫌いな食物(納豆や梅干)があること、嫌いな食物に対しては、ある程度進んで、バリケードのように周りを取り囲んで、阻止円というものを作るということ、納豆や梅干が嫌いな理由には、塩分や酸、納豆の臭いが関係しているということ、などを調べてきました。
今回、苦手な物質に対して、回避行動をとる=負の走化性は、他の微生物との相互関係に必要な性質と推定して、阻止円を形成する余韻と微生物の関係を検証し、変形菌の「生きていく戦略」を明らかにするために検証を行いました。
1.塩分・酸・塩基のいずれにも負の走化性を示し、反応には濃度が重要である
2.「腐食性」「側鎖の炭素数」という化学的性質が負の走化性の要因になる
3.変形体は阻害物質に対して正の走化性も示す
4.阻害要因の有無(負の走化性要因)が微生物との関係においても重要である
●結論と考察
変形体は他のバクテリアに比べ機動性では圧倒的に優勢ですが、外界と細胞質を隔てる防御壁が細胞膜とポリガラクトース以外にないため、外的刺激に対して脆弱です。それでも、阻害物質に対してむしろ積極的に近づこうとします。
この理由として、変形体のエサとなるバクテリアの中には、変形体が負の走化性を示すような物質を生産するものがいることが考えられます。実験の環境では阻害物質はほとんど拡散しませんが、変形体が生息する環境は、湿潤なので水溶性の阻害物質はすぐに拡散して、結果的に危険でなくなると考えられます。そのため、濃度の薄くなった阻害物質を頼りにすれば、広い土壌中でエサとなるバクテリアのコロニーに遭遇する可能性が高くなります。
つまり、変形体は、(忌避物質の存在)=(エサとなるバクテリアの存在)と認識して、動くことで忌避物質を避けるだけでなく、忌避物質を頼りに機動性を生かしてエサを手に入れるというしたたかな「生きる戦略」をとっていると考えられます。
■この研究を始めた理由・経緯は?
小学校3年生の時に母親が図書館で借りてきた「変形菌な人びと」という本を見た時、変形菌が動くことができるということに興味を持ち“変形菌”といういきものに興味を持ったことがきっかけです。
■今回の研究で苦労したことは?
変形体を大量に培養するのが難しくデータ数があまり取れなかったことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
酢酸や納豆に対する正の走化性についての実験時に、性質のよく似た変形体をそろえるために、実験に使う変形体のみ隔離して培養しました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?
■次はどのようなことを目指していきますか?
これまでの研究のデータをすべて取り直すことを考えています。また、変形体に存在するバクテリアに関する実験をまったくできなかったのでこのテーマについて研究をしたいと考えています。
■総文祭に参加した感想を教えてください。
私の研究は「変形菌の生きていく戦略」を多角的に検討したため、実験が多岐に渡り、一つ一つの実験におけるデータ数が少なく結果に対する信頼性に欠けていたことを、いばらき総文に参加して痛感しました。今後は、これまでに実施した実験を再度繰り返し、説得できるだけのデータ数を揃えることに取り組む必要があり、私にとってはそのことが喫緊の課題です。研究は一つの疑問を解決すると、また新たな疑問が生まれるところに面白さがあります。更なる疑問の解明にこれからも取り組んでいくつもりです。