世界へ”FLY”する東大生
~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ
登阪亮哉くん(東京大学)
(2015年10月掲載)
FLY Programで海外の幼児教育の現地調査を行う準備をしていた登阪くんが、9月末にいよいよ日本を出発しました。今回は、幼児教育取材のための事前研究と、渡航の準備を紹介します。現地調査については、随時リポートしてもらいます。
第7回 世界一周のための準備
~幼児教育の専門家に会い、本を読み、取材項目をまとめた
幼児教育の事前研究編
幼児教育についての取材を行う上で、綿密なリサーチは欠かせません。自身の知識や考え方が曖昧なままでは、新たな知見を得ることが難しいからです。そこで、まずは教育を専門にされている方のお話をいろいろと伺うことにしました。例えば、都内で幼児教室を経営されている方や、教育関係の企業の方、大学の先生などです。
7月半ばくらいまで、1週間に1,2件は、伺うお約束をして、実際に子ども達にどう接しているのか、見せていただいたりもしました。このヒアリングを通じて僕は、「自分がこれから何を調べるべきか」を知ることができました。
例えば、幼児教室の方からは、社会で必要とされるスキルが変わりつつあることが、教育にどのような影響を与えているか、という視点から幼児教育の発展について調べることがとても有意義だと教えていただきました。リサーチに使える時間は半年程度なので、このように事前のリサーチ内容の範囲を絞れたことは、とても役に立ちました。
次に、お話を伺った中で紹介された本を読んでみました。主に、海外での幼児教育についての本、幼児教育の具体的な手法に関する本と、教育哲学に関する本を読みました。例えば『新たな幼稚園教育の展開』(※1)という本では、遊具などの環境が整っていても大人の導きがないと精神面での成長には繋がらないことが明らかであることを学びました。このことから、幼稚園の教員の専門性について考察する必要などを感じました。特に良いと思った本に関しては同じ著者の本も読みました。また、保育科の専門学校に通っている友達に教科書を借りることもできました。
※1 『新たな幼稚園教育の展開』小田豊、神永美津子編(東洋館出版社)
ここで、具体的なデータや実例、日本の幼児教育に関する姿勢や取り組みを知ることができました。日本の幼児教育について、現場主義が強い傾向にあるなどの雰囲気を感じ取ることもできました。さらにその後、幼児教育に関する論文を読んでみました。特に英語の論文を読むことで、英語で取材する際に必要となる専門用語の言い回しなどを学びました。大学入学当初に図書館やWeb上の文献の探し方を学んでいたおかげで、いろいろな論文に当たることができました。
これらを通じて、僕の中で明らかにしたいことが固まってきました。
一つは、幼児教育の効果をどう測るか、ということです。
幼児教育は、ノーベル経済学賞を取ったヘックマン(※2)という学者が「最も費用対効果が高い」と結論づけているほど、将来に影響を与えるのですが、実際にある個人や集団の成長のどこまでが幼児教育の影響によるものなのかはとてもわかりにくいとされます。その後に控える義務教育や、高校・大学などの教育によっても大きく左右されるからです。例えば統計的分析によって、早期教育の知能面への影響は満8歳になるまでにはほぼなくなっていることなどがわかっています。このような分析を各機関がどのように行い、実際の教育にフィードバックしているのかを見てみたいです。
※2 ジェームズ・ジョセフ・ヘックマン 。1944 生。シカゴ大学の経済学者。
もう一つは、幼稚園の教員の育成についてです。幼児教育を重視する国々では、幼稚園の先生になるために、4年制の大学卒業の学歴や、資格によっては大学院修了を要件としているところもあるそうです。
一方日本では、現場での経験を重視する傾向から、専門学校で2年の教育課程の後に資格を取って早くから、現場で経験を積むことも選択肢として存在します。それぞれに利点がある中、これらの違いが教育の内容にどう影響を与えているのかを調べたいと思います。
最後に、幼児教育の優れたプログラムを生み出す手法です。
子どもの成長の上で、子どもの周囲の環境構築が重要で、幼児教育の単発のプログラムが与えることができる影響はそれほど大きくない可能性があります。しかし一方で、幼稚園の頃の特に印象深かった出来事によって、その後の人生における振る舞い方が大きく変わったというエピソードもよく聞きます。僕自身も、6歳の時に父に複雑な計算問題を出されて、教えられながら問題を解き、正解した達成感から算数が好きになって、灘中の入試の役に立ったという経験があります。このような、人生の可能性を広げるようなプログラムを探し、どのようなプロセスで作られたのか学び、実際に帰国した後に自分でも作ってみたいと感じています。
以上のようなリサーチを経て訪問先を決定した後は、その機関に関するリサーチを行いました。海外の幼稚園はコンセプトなどを詳細に書いていることが多く、それだけでもいろいろと得るものがありました。例えばこちらは、僕が通っていたドイツの幼稚園のホームページですです。
・http://www.kindergarten-kuepkersweg.de/
この幼稚園では、コンセプトや教育内容などを数ページに渡って説明しています。ドイツ語と英語が比較的近い言語のため、ページ全体を英訳して読んでいます。
こうして得た知見を受け、現在は訪問先ごとに質問をリストアップ・精査しています。
持ち物編
今回の取材では海外に数か月間滞在することになるので、準備しなければいけないことがとても多かったです。いくつかの項目に分けて説明したいと思います。
○お金
そもそもお金が無ければ海外で生活できません。そこで、もともとの貯金に加え、アルバイトのために深夜バイトをしたり(昼は人と会うなどの予定が入りやすいのでバイトを入れませんでした)、東大に支援金を申請したり、寄付を募ったりしました。
出発2週間前になって東大の支援金が急に減額され、急きょ予算計画を見直すというハプニングもありましたが、なんとか海外で生活できるだけの資金を集めることができました。
○持ち物
世界一周のためには様々な装備が必要でした。これらは、世界一周に関するブログを読み漁ってリストアップしました。以下がその一覧です。
バックパック・衣類・タオル・レインコート・圧縮袋・証明写真・保険の証明書・予防接種の証明書・錠・チェーン・変換プラグ・延長コード・ICレコーダー・電池・ヘッドライト・トラベルクッカー・PC・HDD・カメラ・調味料・洗剤・洗濯ひも・洗濯ばさみ・S字フック・石鹸・歯ブラシ・コップ・薬・ティッシュ・トイレットペーパー
もともと持っていた物もありますが、バックパックやトラベルクッカーなどは持っていなかったので、買い足しました。
○安全管理
無事に帰ってくることが最優先なので、安全管理にはお金を惜しまずいろいろ手を打ちました。主に、予防接種や保険の加入などの健康面と、お金を引き出す手段の分散と、鍵やチェーンによる防犯です。緊急連絡先のリストアップや連絡手段の確保なども忘れずに行いました。
○各種手続き
各国を渡っていくことになるので、様々な手続きが必要となりました。たとえば、アメリカに入国するためのESTA(※)という資格の申請や、航空券の購入、宿の手配などです。これらはすべてオンラインでできたので、とても便利でした。
※電子渡航認証システム(Electronic System for Travel Authorization)
アメリカにビザ無しで90日以内の旅行または商用を目的に渡航する人が申請します。
○取材先のアポ取り
取材のためにはアポ取りが欠かせません。
今回の取材先は海外の教育機関なので、英語でアポ取りを行うことになりました。メールの文は自分で書いたあと、帰国子女の友達にも見てもらって修正しました。海外の人は仕事関係のメールを仕事の時間外ではあまり見ないらしく、夏休み中は返事が遅くてとても苦労しました。
準備はわからないことがかなり多く、周囲の人の助けを借りながらなんとか進めることができ、9月のはじめにようやく完了しました。その後、出発までお世話になった方々への挨拶とお礼をしました。
つづく・・・
※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/
前回の記事を読む
第1回 「飛び込め、躊躇なく」 世界一周を実現するチャンス
~FLY Program参加を決意したわけ
~価値ある1年をいかに自分で考えて創っていくか
第5回 なぜ幼児教育を取材テーマにしたか
第6回 休学経験者インタビュー:
世界40ヵ国以上、約300日間で回り、海外で働く人を取材し発信する旅
~生ぬるい自分を変え、同世代にいろいろな選択肢を示したい