世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

(2016年8月掲載)

第35回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その3

教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~Learning Storyの書き方

 

子どもの成長に関する全てのことを書く。他との比較や負の側面は書かない 

講師はスライドや模造紙を用いてレクチャーを行う
講師はスライドや模造紙を用いてレクチャーを行う

前回まででLearning Storyを学ぶための導入が終わり、テキストが配られて、本格的なレクチャーが始まりました。

 

はじめに、Learning Storyの実物を見て、どのようなものか確認しました。個人的には、三人称の小説に似ていると感じました。

 

次に、講師が解説を始めます。Learning Storyとは、ある程度のフォーマットに則り、子どもを観察してそれを客観的に記述するものです。その中で、子どもの成長とそのきっかけを評価します。

 

フォーマットのおかげで、大事なことを重点的に評価し記述することができます。また、成長の過程でどのような働きかけが効果的だったかということが自然と見えてくるので、ほかに何をすべきだったか、次に何をすべきかなどもわかります。また、Learning Storyを通して先生の目線が親に伝わるため、子どもの内的成長を親に気づかせることができます。この際重要なのは、子ども同士を比較したり、子どものネガティブな側面(できなかったこと)を記述したりしないことです。また、子どもの成長に関することを全て書かなければなりません。

 

Learning Storyはその効果ゆえに、発祥地のニュージーランドでは重要な評価対象となっているそうです。

 

解説の後、実際にLearning Storyを書くための練習が始まりました。

 

講師はまず、先生たちに子どもの写真を見せ、グループに分かれて気づいたところをそれぞれ模造紙に列挙させました。先生たちは手が汚れるのも気にしないくらい真剣に書き込んでいきました。僕も参加させていただきましたが、他の先生の観察は、僕が口を挟む余地がないくらいにきめ細やかで、子どもと接するプロの実力を実感しました。講師はそれぞれのグループを見て回りつつ、「考えすぎは良くないかもしれませんよ」とアドバイスしていました。 

 

 

客観的な記述vs.「解釈」「色眼鏡」 その線引きはどこに?

 

10分ほど経つと、講師はそれぞれの模造紙を教室の前に貼りました。そして、一つ一つについて「客観性」をチェックしていきました。例えば「子どもが五感を使ってお絵かきを楽しんでいる」という記述に対して、「これは写真だけでわかることではありませんね。あなた自身の解釈になってしまっています」という指摘がありました。また、「子どもは左利きである」という記述に対しては、「これは、筆を持っているほうが利き手だという色眼鏡が入ってしまっていますね」と指摘されました。このように、先生による「解釈」と「色眼鏡」をそれぞれ指摘することで、いかに人が無意識に主観的な判断を入れてしまうかを示しました。その上で、その全てが問題なのではなく、自身の主観的判断を自覚して、記述内容に占める主観の割合をコントロールできるようにすべきだという説明がありました。

 

次に、言葉だけで物事を伝える難しさを実感するため、ゲームを行いました。二人組を作り、それぞれの手元に積み木を置き、お互いの手元を箱で隠します。そして、一人が積み木で何らかの形を作り、それを言葉だけで相手に伝え、同じ形を作ってもらうというものです。実際にやってみると、思わず身振り手振りが出てしまったり、積み方の説明の仕方がわからず迷ってしまったりと、思った以上に難しさを感じました。

 

次に、実際にLearning Storyを書く上での姿勢が共有されました。

 

Learning Storyには、Mood(子どもの心の動きの記述)、Completeness(漏れのない記述)、Directness(成長の直接的な記述)の全てが必要です。そのためには、ただ見ているだけではなく、子どもの思考のプロセスを問いかけの中で聞き出したり、逆にあえて一歩引いて行動の外にある子どもの意図を見出したりと、多角的なアプローチをしなければなりません。また、特に幼い子どもは自身が考えたことをすぐに忘れがちなので、学びがあったらその場で子どもに問いかけなければいけません。そのためには計画性も必要になります。

 

以上でLearning Storyを書く上での注意点の説明が終わりました。次回以降、先生たちが実際にLearning Storyを書き始めました。

 

<つづく>

第36回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その4

教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~実際に書いてみた

 

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

前回の記事を読む

第34回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その2

教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~子どもの観察をどのように記録しているか

第33回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その1

子どもの学びを客観的に記述することを通して教育の質を高める「Learning Story」を学ぶ

第32回 子どもを共に育てるチームとして、学校と親が協力することの意味 ~マレーシアの事例紹介 その2 

第31回 発展途上国の子どもたちに、実践を通した学びの機会を与えるEQLの試み  ~マレーシアの事例紹介 その1

 

第30回 一人旅での安全管理~万全の注意をしつつ、心ひかれたものをしっかりと味わおう

第29回 話に聞くだけではわからない、「東南アジアの優等生」の街の実態 inシンガポール

第28回 「普通の都会」の風景とアジアの文化が混在する街 inマレーシア

第27回 タイの夜の怖い体験

第26回 都市のエネルギーが圧倒的。強烈に焼き付くバンコクの匂い

 

第25回 欧米の学生の自己発信力と行動力の原点を幼児教育に見た

 ~問題解決や議論に必要な力は日常生活の中で綿密に育まれていく

[欧米の幼児教育調査まとめ]

第24回 「社会の中の自分」を意識できることを重視~ドイツの幼稚園Kindergarten Küpkersweg

第23回 ドイツの年末年始 ~様々な行事にお国柄がにじむ

第22回 キリスト教国の最大の祭りの準備~クリスマスマーケットに行ってみましたinドイツ

第21回 騒ぐことも休むことも遵法精神で~ドイツ人の「真面目さ」に触れる

 

第20回 パリ同時多発テロ直後のヨーロッパに滞在! ロンドン編

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第18回 ニューヨークの幼稚園から高校までの一貫校・Riverdale Country School訪問記3

「コミュニティへの責任感」を身に付けさせることでリーダーシップを養う ~Mary Ludemann先生インタビュー

第17回 ニューヨークの幼稚園から高校までの一貫校・Riverdale Country School訪問記2

「読み聞かせ」の時間には「軍隊」や「平和」などを話し合う ~授業見学

第16回 ニューヨークの幼稚園から高校までの一貫校・Riverdale Country School訪問記1

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