世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

(2015年12月掲載)

第11回 いよいよ幼児教育機関の取材開始!
Villa Montessori幼稚園~カリフォルニア州シリコンバレー vol.1

きめ細かな指導で子どもの吸収する精神(absorbent mind)を活かす教育

最初の取材先は、カリフォルニア州にあるシリコンバレーの中でも特に教育の激戦区と言われる、クパチーノという地域にあるVilla Montessoriという幼稚園です。


この幼稚園は非営利で運営されているにも関わらず、授業料は3時間授業で月690ドル(約8万円)、7時間授業なら月1290ドル(約15万円)と、日本の私立幼稚園の平均である約2万円(文部科学省「平成24年度子どもの学習費調査」)よりもかなり高くなっています。その最大の要因は、子どもに対する先生の人数が多いことです。日本では一般的に先生1人または2人が20~30人のクラスを持つのに対し、この幼稚園では20人のクラスを先生3人または4人で運営しています。

また、この幼稚園は「モンテッソーリ教育」という有名な教育プログラムを導入しています。モンテッソーリ教育とは、20世紀初頭にマリア・モンテッソーリという教育者によって発明された教育プログラムです。「教具」と呼ばれる玩具を用いた感覚教育を施すことと、子どもの行動を詳細に観察して一人ひとりの成長に合わせた指導を行うことが特徴です。子どもたちの優れた特徴である「吸収する精神(absorbent mind)」を活かし、子どもたちの(1)実生活でのふるまい、(2)感受性、(3)学問的思考、(4)身体的表現力を伸ばすことを理念としています。これに加え、Villa Montessoriは特に子どもたちの自己肯定感と独立心を育むことを重視しています。

これらを実現するため教師の質にこだわっており、AMI(American Montessori institute)やAMS(American Montessori Society)などによって認定された教師がほとんどを占めています。また、幼稚園での教育内容のブラッシュアップと家庭内教育との連携のため、教師と保護者による会議を開いています。


僕も実際に授業が行われている現場に入らせていただき、子どもたちの様子や先生のふるまい方について観察しました。

誕生日会のセレモニーにもアカデミックな話題とプレゼンの機会を盛り込む

この日は、1人の男の子の誕生日だったため、最初にそれをお祝いしました。


子どもたちが輪になって座り、真ん中に誕生日の男の子(A君とします)が立っています。先生は、真ん中に太陽の模型を置き、A君に地球儀を持たせました。そして、太陽の周りに各月の名前(January, Fabruary…...)が書かれたカードを並べました。A君は自分の誕生日である10月のところに立ちました。先生が「5年前の10月、A君が生まれました。」と言った後、「♪地球は回る回る回る 地球は回る 1年かけて」と、『ロンドン橋落ちた』のメロディに合わせて歌いました。その間にA君は太陽の周りを一周します。そう、地球の公転の概念を、誕生日と関連付けて教えているのです。

一周した後、先生はA君に対して「こうしてA君は1歳になりました。お父さん、1歳の時のA君は何が出来ましたか?」と、授業参観に来ていたA君のお父さんに尋ねました。2歳、3歳とそれを繰り返す中で、A君ができることがどんどん増えてきたことが自然と意識されるように先生が誘導していました。また、A君が3歳になって幼稚園に入ったというエピソードの時、周りのみんなに「この時のA君はどんな感じだった?」と聞きました。A君に対しても、3歳からは「3歳になって何ができるようになった?」「周りのみんなとはどういう関係だった?」と、自分の口で答えてもらうようにしていました。このように、子どもたち一人ひとりが1年に1回主役になる機会があり、自分のことを振り返りってみんなの前で話すことになります。何度かこのような経験をしているためか、A君が恥ずかしがらずに堂々と、先生の方ではなくクラスの仲間の方を見て話していたのが印象的でした。

次にトイレ休憩がありました。トイレ休憩に行く際、先生が子どもたちの名前を順番に読んでいき、呼ばれた子どもが先生の前に整列しました。7人の列が作られると、先生は「腕を後ろに組みましょう」と指示し、全員が腕を後ろに組んだところでようやくトイレに向けて動き始めます。これを3人の先生が繰り返しました。「○○しましょう」というタスクを子どもたちに与え、それをしっかりと守らせることで、騒がしくなりがちな移動時でもとても静かに移動できていました。


トイレ休憩のあとは再び教室に戻り、みんなで輪になって座りました。先生が「サイレンスゲームをします」と言うと、先生と子どもたちはしばらく目を閉じて、喋ったり動いたりするのを止めました。日本で言う座禅のような感じです。

遊びの中にも自己肯定感と独立心を育てる言葉かけ

それが終わると、子どもたちがそれぞれ教具で遊ぶ時間になりました。先生は特に指示は出さず、子どもたちを観察していました。遊びの種類は多様で、粘土遊びをしたり、パズルで物語を作ったり、数字やアルファベットが書かれたカードで遊んだりしていました。1人で熱中している子もいれば、カードの並べ方を3人で一緒に考えたり、お互いの作品を褒め合ったりする子たちもいました。


子どもたちは、自分がやっていることに飽きたらその段階でそれを片付け、それから次に何をやるかを自分で決めて実行していました。やることがわからず退屈してしまったり、大声をあげて走り回ったりする子どもが1人もいなかったのが印象的でした。また、放置されたおもちゃが一つもなく、片付け方が難しいものは教えてあげるなど、片付けに関してかなり徹底的に教えられていました。

先生たちは教室全体に目を配りながら、子どもたちの表情の写真を撮ったり、子どもたちの手助けをしたり、話を聞いたりしていました。例えば、色鉛筆で型の周りをなぞる作業が難しくて子どもが困っていると、先生がやってみせてコツを教えた後に「さあ、やってみて」と渡していました。子どもが粘土で何か作っているときに先生に一生懸命自分が作っているものの説明をしているときは、その子だけを見て話を真剣に聞いていました。また、何か難しいことに挑戦して成功した子がいると、その子に近づいて行って褒めていました。「スゴーイ!」と盛り上げる感じではなく、「よくできたね」と冷静に言っていました。一方、子どもが何か危ないことをしそうになっていた時は、その子に目線を合わせて注意していました。例えば重いものを片手で持っていた時は「両手で持たないと落としてしまうかもしれないから危ないよ」と諭していました。このように、子どもたちに何かを伝える時に常に冷静で、対等な相手に話すように話しかけていたのが印象的でした。

一人ひとりの必要性に応じた接し方で実生活でのふるまいや感受性を育てる

1時間ほどの遊びを終え、おやつの時間になりました。みんな教具を片づけたのですが、片づけるのが難しいために遅くなってしまっている子が1人いました。先生の方をじっと見ていましたが、見られただけでは先生は何もしませんでした。その子が「手助けしてほしい」と言うと、先生は「○○ちゃん、手伝ってあげて」と促しました。


その後、先ほどのように列を作って園庭に行き、おやつを食べました。食べ終わった食器を片づけたり、先生がみんなに配ったジュースの容器を片づけるのを子どもが手伝ったりしていました。

おやつを食べ終わった子どもたちは、そのまま園庭で遊びはじめました。この時は先ほどとは打って変わってみんな大騒ぎしていました。騒ぐ時とそうでないときのメリハリがしっかりしています。園庭はかなり狭く、遊具で遊んでいる子が多かったです。

そんな中で、とても興味深かった出来事があります。年少の子と年長の子が一緒に遊んでいた時、年長の子が走るのに追いつこうと、年少の子もヨタヨタと走っていました。そこは足場が少し悪く、小さい子は転んでしまう可能性がありました。そのとき、先生がすぐに二人を止め、年長の子に対して「○○君がここを走ったら危ないよね。気を付けて」と諭していました。このように、学年でクラスが分かれていないために他者に対する思いやりを意識する場面が見られました。

また、子どもたちの中で1人、ほかの子に比べておとなしくするのが苦手な子がいました。教室で周りが静かな時も、騒いだりはしないまでもキョロキョロとあたりを見回したり、先生に頻繁に話しかけたりしていました。その子が園庭での遊びで盛り上がってしまい、再び教室に入るときに列に並ぶことができませんでした。すると、一人の先生がその子につきっきりで相手をし、諭したり手をつないだりして落ち着かせていました。
こうして教室に戻り、挨拶をして午前の授業が終了しました。

以上が授業を観察した結果です。次回は、以上の観察を踏まえたインタビューと考察を述べたいと思います。

 

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

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