高校生×仲間

世界の高校 行ってみたらこんなとこ 第5回

アメリカ留学経験者にききました

たとえ実現不可能に思えても、好きなことにはとことん努力する価値がある! 

明るくてフレンドリー、でも自分のやることには自分でちゃんと責任を取るアメリカの高校生


(2012年10月取材)

取材対象者:山口結さん
大学:国際基督教大学 教養学部 アーツサイエンス学科

公益財団法人AFS日本協会の実施するAFS年間派遣プログラム第55期生)

(取材:2012年10月)

留学期間:2008年8月~2009年6月(高校2年次) 

【留学先】

国:アメリカ
高校がある都市:テキサス州ルーカス
高校:Lovejoy High School


◎ルーカスってどんな街?
ダラスから車で40分ほどの郊外にある、人口3000人程度ののどかな街。ホームステイ先の家は、外出する時は鍵をかけなくても平気というほど安全だった。夏は暑く、38℃前後まで気温が上がる日もある。冬は0度近くまで冷え込むものの、雪はめったに降らない。山がないので、視界が開けてとても開放的だった。 


留学先にアメリカを選んだ理由は? 

 

中学2年生のとき、いとこの結婚式でサンフランシスコに行きました。いとこ(新婦)はオーストラリアからの帰国子女、ご主人は日本で育ったドイツ系アメリカ人。2人ともインターナショナルスクールから海外の大学に進んだため、世界各国から友人が結婚式に参列しました。


家族で海外旅行をしたことはありましたが、いろんな国の人が英語でわーっと話し合っているのを間近で見たのはその時が初めてで、とにかく圧倒されっぱなしでした。何もわからないし、心細くて…。でも、こんな世界があるんだ、ということに気がついて、「いつか私も英語をちゃんと話せるようになって、あの輪に入りたい!」と強く思ったことから、高校留学を意識し始めました。留学先にアメリカを選んだのも、英語圏の国で英語をしっかり勉強したかったのと、さまざま国から集まった人がかもし出すサンフランシスコの空気感が忘れられなかったからです。


高校生のうちに、言語だけでなく、他の国の生活や文化にじかに触れられる機会を持つことができて、本当によかったです。それは現地の友達にとっても同じだと思います。「Yuiは私にとって初めての日本人の友達。日本のすばらしさがわかったわ!」と言ってくれる友達が何人もできました。私にとって彼らこそが“アメリカの高校生”であるように、彼らにとっては私が“日本の高校生”です。ある意味その国の代表ですよね(笑)。

 

大学入試はナシ! ふだんの授業をしっかり受ける


アメリカは、日本と違って州によって学校制度が違います。私が行ったテキサス州は、小学校が1~5年生、中学校が1~3年生、高校は1~4年生となっています。義務教育は17歳まで。つまり高校在学中に義務教育が終了するため、17歳になった時点で自主的に退学する生徒もいます。


高校卒業後の進路は人によって違いますが、私の通っていた高校ではほとんどの生徒が大学に進学していました。ダンスや音楽などの芸術分野に進む生徒も多かったですね。


テキサスの州立大学に進む場合は、SAT(※1)やACT(※2)という共通テストを受け規定以上のスコアを得る必要がありますが、大学によってはとにかく受験すればOKで、最低点などの規定がないところもあります。ただ、日本のような入学試験はなく、一般的にはSATのスコアや自己アピール、エッセイなどの書類選考で合格が決まります。 

 

進路指導には熱心な学校でしたが、SATやエッセイの練習は、学校をあげて指導するというよりは、生徒が自分でやる、という感じでした。日本のように塾や予備校のようなものもありません。あと、1年間を終わった時に、各授業で優秀な生徒や成績がいちばん上がった生徒は先生から表彰されます。こういったことも、大学入学の評価のポイントになるので、大学進学を目指す人はふだんの授業をきちんと受けていました。

 

※1   SAT:Scholastic Assessment Test。アメリカ合衆国内にある大学が世界中どこからの受験生にも大学に進学する際に受験させる共通テスト
※2   ACT :The American College Testing Program。SATとは別の団体が行う、大学進学用の共通テスト

 

 

「写真・カメラ」「馬科学」「ダンス」…バラエティ豊かな授業の中から、自分の好きな科目を取る

 

[山口さんの時間割]

 

生徒数

1クラス20人、1学年 約200人、全校 約600人、

他の国からの留学生

ドイツ、オーストラリア(山口さんの留学当時)

山口さんの時間割り

1週間はA dayB dayの繰り返し

前期

[A day ]Choir[合唱], Studio Dance ,US History(2コマ分+ランチ), Biology[生物学], Animal Science[動物科学], English, Algebra[代数学]

[B day]Choir, Studio Dance ,Leadership[リーダーシップ](2コマ分+ランチ), Biology, Animal Science, English, Algebra

後期

[A day ]Choir, Studio Dance , US History(2コマ分+ランチ), Biology, Animal Science, English, Algebra

[B day] Choir, Studio Dance I, Photo Journalism[1](2コマ分+ランチ), Biology, Equine Science[馬科学※2], English, Algebra

1写真・カメラのクラスで、人に何かを伝える写真はどういう効果があるのか、またそういう写真はどのようにして撮るのかを習う授業

2 馬について、生物学、歴史学などさまざまな角度から学ぶ

授業はA dayとB dayの繰り返しです。入学前にホストマザー、学校のカウンセラーと私の三者面談で相談し、日本から持参した成績証明書を参考にして、どのレベルのクラスに入るかを決めました。


私の学校は授業時間が長くて、1日8コマ、8時50分から16時05分までです。主要科目である英語、数学、理科や社会のほかにも、スポーツとかアートとか写真とか、実にさまざまな授業がありました。日本では、受験科目にない科目は軽視されがちですが、アメリカでは自分がやりたい授業を取っているということがクレジット(入学のための加点)になるようです。名門大学でも、勉強はできて当たり前で、かつ、それ以外に何を勉強したか、ということが評価されるようです。

 

宿題はとても多くて、たいへんでした。オンラインで提出するエッセイやプレゼンなど、パソコンを使ってする課題もたくさんありました。


日本のような一方的な授業は少ないです。生徒からの質問や発言が積極的なのに加えて、先生も生徒にリアクションを求めます。テストの点数だけでなく、課題への取り組みや普段の授業態度、発言や積極性も成績表に含まれていたと思います。

 

また、ユニークな取り組みに「イヤーブック」というアルバム制作があります。日本の卒業アルバムに似たものですが、内容やデザイン、写真、文章まで、すべてを「写真」や「編集」などといった授業を取っている生徒が制作するんですよ。私も日本人からの留学生ということでコメントを求められました。とてもいい想い出です。


部活もあります。もしサッカーチームに入りたければ、「サッカー」という授業を選択することになっていました。そういう授業はだいたい1限か8限にあることが多いので、授業時間外にも朝練・夕練ができるようになっていました。

  

何事にも挑戦できるし何度でもやり直せるけど、責任も取る!


芯が強く、自立している子が多いですね。アメリカは文字通り「自由と責任の国」。まわりの意見を気にせずに、何事にも挑戦できる雰囲気があります。失敗してもあきらめないで、何度でもやり直すことが可能です。それはつまり、たとえ高校生であっても一個人としての責任を求められるということです。「親が言ったから○○大学に行く」とか「就職に強いから法学部に行く」という人はいません。「フォトグラファーになりたいから、カメラを勉強する」のです。高校でダンスを頑張って、UCLAに行ってダンスを学んでいる友達もいます。


また、自己責任という意味では、自分の使うお金は自分で稼ぐ、ということでアルバイトをしている子はけっこういました。車の免許が16歳で取れるので、自分で稼いだお金で中古車を買って、通学に使っている人もいましたね。


たとえ実現不可能に思えても、好きなことには努力する価値があると思わせてくれるアメリカの高校生の考え方は、私はとても好きですし、それを受け入れる国としての懐の深さを感じました。


授業中に寝ている子はいません。ものを食べるのはOK、机の上に足を上げるというのもふつうです。しゃべりすぎると注意されますが…。「日本の子は授業中に寝るよ」と言ったら「信じられない!」という感じでした。

 

日本=アニメ? サムライ ? 最先端技術?!


アニメが好きな子は「日本=アニメ」だと思っていますし、「Cool Japan」とか、「コスプレ」とかいうイメージは強いですね。「サムライ」とか「ニンジャ」もよく知っていて、「伝統のある国」、そして「技術では最先端の国」と思っている人も多かったです。NISSANやSONYをアメリカの会社だと思っている人にはしっかり説明しておきました。「日本はみんなの生活の中にあるんだよ」と付け加えることも忘れずに(笑)。


アメリカにはさまざまな国からの移民がいますので、自分と異なる文化で生まれ育った人と接する機会が日本にくらべて非常に多いです。それでも、日本と中国との差がわからない人もいました。日本からの留学生だというと、「じゃあ中国語が話せるのね」と言われて、「日本語なら話せるけど」と言ったら、「え?日本語ってあるの?!」(笑)。日本にとっては、外国といえばアメリカだけど、逆はそうではないんだ、ということを実感しました。


学年を越えて本当にたくさんの友達ができました。朝来た時から夕方帰るときまで、大勢の友達に「Yui!」と声をかけてもらい、留学前に私が思い描いていた“フレンドリーでにぎやかな人たちがいるアメリカ”というイメージそのままでした。

 

わからなくてもがんばってついていくことで、言葉の壁も乗り越えた


英語に耳が慣れるまではほんとうにたいへんでした。しんどかったので、カウンセラーに相談したら、「クラスを落とすこともできるよ」と言われたのですが、最初に行ったクラスがみんな性格がいい人で、「わからなかったら聞きにおいでよ。ここで頑張ろう」と言ってくれたので、そのクラスにわからないなりについていくうちに、だんだんできるようになってきました。各科目の先生と相談して、留学生の自分でもクリアできるレベルの課題を出してもらうなど、自分で“交渉”もしていました。


勉強の内容自体は日本より簡単でしたし、特に数学は英語がわからなくてもできますしね。数学でも、だいたい4択問題ですし、テストのときも公式や数式が前に張り出されているので、特に数学は成績がよかったです。いちばん優秀な生徒として表彰されたくらいでしたから(笑)。


こうやって現地の子たちに混じって頑張ったことは、今の大学の授業でも本当に役に立っていると思います。

 

「結」という名前のように、人と人とをつなぐ仕事がしたい!


受験勉強があるのは日本のシステム、それはそれで仕方ありませんし、投げ出せるものではありません。求められる結果をしっかり出しつつも、好きなことや将来に活きることを自分の意思で選ぶことがとても大事だと思います。こういった考え方は、留学を通して得られました。


世界は広いです。本当に広い。自分とその周辺だけにとどまらず、多種多様な人たちに出会う楽しさを知ってほしいです。「留年が気になる……」という理由で留学をあきらめる子が多いですが、受験勉強は帰国してからもできますし、年下の学年で新しい友達もできます。一年ぐらいの遅れは関係ないですよ。


高校生で留学すると、現地での生活で関わる人がすごく多いと思います。ホストファミリーがいて、学校の友達がいて、みんなが助けてくれて……。勉強、勉強よりも、人のつながりが重視されています。


将来的には人と人とをつなぐ仕事をしたいと考えています。私を介してより多くの人が出会い、新たなつながりが広がっていく……。そんな役割を果たせたら、そして世界規模で活躍することを目指しています。


留学以前は「結」という自分の名前がそれほど好きではありませんでした。でも、アメリカの友達たちに「Yuiの笑顔がみんな大好きよ」「あなたの雰囲気はまわりの人を幸せにするわ」ということを言われて本当にうれしかった。場合によっては言葉よりも大切なコミュニケーションの方法、それが笑顔じゃないかと思います。そんな自分の長所を活かして、人と人とを“結ぶ”存在になれたらうれしいですね。

 

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